暗渠の祝福

27.7.26

FKMT/森田鉄雄

好感度ゼロ。
ナマエの態度はまさにそんな感じだった。嫌われてはいないが興味関心もない、という素っ気なさが出会って数ヶ月経つというのに少しも変わらない。
まあ、嫌われていないだけマシであることは理解している。彼女は人の好き嫌いが激しい。正確に言えば大抵の人間は嫌いで、好きなのは平井銀二その人だけと言ってもいいだろう。自分が好感度ゼロの位置に居続けられるのも銀二に目を掛けて貰っているからに他ならなかった。
彼女は銀王の女だ。誰に媚びる必要もない。お前に笑い掛けてなんの得があると面と向かって言われたことがあるがそのとおりだと思う。
助手席の様子を窺うと、ガムを噛んでいるナマエは退屈そうに爪の間を眺めていた。視線に気づいたらしい彼女と目が合う。慌てて目を逸らしてももう遅い。すぐに「ねえ」と言う不機嫌そうな声が車内に響いた。

「何黙ってるの」
「いや……その……」
「なんなの? 言いたいことあるんでしょ? 言ったら?」
「いいのか?」
「駄目だったらわざわざ訊かない」

尤もだ。
そして、訊かれてもいいと思っているということは、ナマエは森田の訊きたいことを予想しているのだろう。
一週間前の出来事について、ナマエが本当はどう考えているのかを知りたいのだが、果たして答えてくれるのだろうか。
山梨の奥地へ向かう寂れた道に進入しながら訊ねる。一週間前のあの日、あのときのことをどう思っているのか。不本意だったのではないか、と。

「なんだ、そんなことを気にしてもじもじしてたの?」
「そんなことってなぁ……。俺は結構気まずいよ」
「銀二さんとは普通に喋ってたじゃない」
「それはナマエがいないと思ってたから……」
「私がいたら気まずいなんて馬鹿げてる。あんたは銀二さんの言う通りにしただけだし、私もそう。私は彼の言うに従った。そうしたいと思ったから」
「え?」
「馬鹿なんだなとは思ってたけど、まさか私は銀二さんの言いなりだと思ってたの? 私にだって選ぶ権利あるでしょ。私は相手が森田だから抱かれたのであって、他の男だったら許してない。言いなりはむしろあんたの方だ」

私じゃなくても抱いただろ、と言ってナマエはジャンパーのポケットから取り出した銀紙にガムを吐き出す。
ひんやりとした視線が頬に突き刺さっていた。
銀二の頼みだからそうしたのは確かだ。ナマエ以外の女でも同じことをしたとは思う。でも、彼女のことを他の女と同じだと思っているわけではない。
ナマエがいたら気まずいと感じるのは当然なのだ。もう二度とあんなことは起こらないだろうと思うのに、またナマエと交わりたいと思ってしまうのだから。
それは銀二に対する裏切りであるし、ナマエも是とは言うまい。これほど愚かな望みはないと、しかし、どうしてもそれが手放し難かった。

「俺はたぶん、ナマエが好きなんだよ」
「それはそうでしょうね」

砂利道に入り車体が揺れる。ナマエの表情を窺いたかったが、道幅が狭くそれどころではない。

「そんなことはみんな知ってる。だってそうじゃなきゃ銀二さんがあんな提案すると思う? あの人はあんたに甘い」

ナマエは面白くなさそうに言った。銀二に贔屓されている森田が憎いという気持ちがありありと感じ取れる。

「勘違いしないでほしいんだけど、森田は銀二さんとふたりで私を共有してるんじゃないんだからね。私とあんたで銀二さんを取り合ってるの、いい?」
「本当に?」
「戦いだから。これは」

それっきりナマエは喋らなくなった。頬杖をついて車窓を眺め、森田などいないみたいに振る舞う。
戦いなら、関心を持たれていないというのは勘違いなのだろう。敵のことはよく知るべきだ。
だから、銀二の突飛な提案に乗ったのだろうか。彼女のことだ。きっと最初から自分は邪魔者だったに違いない。

NAME CHANGE

TEXT

QooQ