シラジラトアケル

27.7.26

GENSHIN/セノ

手紙が届いた。薄緑色の封筒に青みがかったインクで私の名前が記されている。
これまでに届いた手紙と比べると傲慢さやプライドの高さは感じられなかったが、丁寧で、少しの神経質さを感じさせる筆致から差出人が学者であるような気はした。
封筒を裏返すとそこに「ティナリ」とある。ひと月ほど前、セノに連れられて行ったガンダルヴァー村でレンジャー長をしていると紹介された人の名だった。彼はセノの親しい友人でもあり、一週間に渡るセノの不在期間中、私の面倒をみてくれた親切な人だ。セノではなく私宛てである点は気になったが、少なくともトラブルが持ち込まれたわけではなさそうで安心した。
手紙は簡単な挨拶から始まり、この間いっしょに植えた薬草が早くも収穫できそうなほどまで育ったこと、コレイが会いたがっているからまた遊びにきてほしいというようなことが書かれていた。
ガンダルヴァー村まではさほど遠くないけれど私の一存で出掛けられる距離でもない。来訪の誘いならやはりセノを介した方が良かったのではと思いつつ追伸に視線を巡らせたところで一瞬息が止まった。
むしろ、追伸の方が本題だったわけか。
セノが帰ってくるのは日が沈んでからの筈だ。便箋を買いに行く時間くらいはあるけれど、教令院の人間に見つかったらすぐにセノの知るところとなる。
以前、絵でも描いてみたらどうかとセノが買い与えてくれた紙があった。それを丁度よい大きさに切って便箋と封筒を作る。急いで返事を書き上げ一番近くのポストに投函したあと、いかにもそれが目的で外出したかのようにカフェで温かいお茶を一杯飲んでから帰宅することにした。
普段はなんとも思わないけれど後ろめたいことをしているとやはり視線が気になる。今や私のことを知っているのは教令院の学者に限らない。よく利用する青果店や肉屋の店員、カフェのスタッフ、璃月やらフォンテーヌから来た商人に、近所に住む人たち。大マハマトラと暮らしていればどうしたって目立ってしまうから記憶に残りやすいのだ。
家に帰ってすぐ、ティナリから届いた手紙は流しで燃やし室内を軽く掃除した。
『悩み事があれば相談に乗るよ。もちろん秘密厳守だから安心して』
そう書かれていた部分だけが写真のようにはっきりと記憶されている。怖いほどタイミングの良い申し出だ。もしかしたらセノももう気づいていて、気を遣われているのではと疑いたくなる。
その日の夜、夕食の席でガンダルヴァー村に行く機会はないかセノに訊ねてみた。ティナリからの返事を待つ必要はなかった。セノが肯んずればこれ以上私がティナリと直接やり取りをせずに済むし、逆にセノの許可が降りなければ予めどれだけ綿密に計画を立てたとしてもスメールシティから出ることはできないからだ。
話を聞いたセノは始めこそ驚いていたが、悩む素振りもなく外出を許可してくれた。ガンダルヴァー村に行きたい理由くらいは訊ねられるかと思っていたのに実にあっさりしたものだった。

「すぐに出発しなくてもいいだろう? 十日後でどうだ」
「問題ありません」
ナマエにスメールを案内しようと思って休暇を取ったんだ。この間はアビディアの森を見て回っただけだと聞いている」
「はい。そうです」
「軽くでいいから自分の分の荷造りをしておいてくれるか? 今回は先に送ろう。何か必要なものがあったら言ってくれ」
「わかりました」

ずっと上機嫌なセノを見ていると外出は予定されていたことなのではないかという気がした。今日の食事の支度ひとつ取っても言えることだが、彼は私がピタとタフチーンならピタを食べたいだとか、要望を出したり選んだりしただけでわかりやすく喜ぶ。元々旅程が組まれていたところに私が自分から出掛けたいと言い出したため簡単に話が進んだのかも知れない。
しかしセノまでいっしょとなるとだいぶ都合が悪かった。
彼は過保護だ。旅先で長時間側を離れるなんてことは考えづらい。無理に目的を果たそうとすれば訝しく思われるだろうし、残念だが今回は大人しくしておいて、外出しやすい状況を作ることに専念するべきだろうか。

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