遠い隣人

27.7.26

WORLD TRIGGER/嵐山 准

一見、爽やか好青年の嵐山も、プライベートではいやらしいことをしているんだなぁと思うと心臓がびっくりして捩れそうになる。もしかしたら正式な恋人と愛を営むことはいやらしくなどないと主張する輩がいるかも知れないが、子どもに見せられないことを健全な行為だと言い張るのは無理があるだろう。
テレビ画面を見詰めている少女の内、一体何人が嵐山の長い指や伏せられた瞳の陰に性欲を覚えるのか、わかったものではない。
嵐山はまるでアイドルみたいな立ち位置にあるが、芸能人ではないのだ。三門市に住んでいれば、そこらのコンビニだとか、ファミレスだとかで偶然見かけることもあるだろう。もしかしたら自分にもチャンスがあるかも知れないと囁いている女子高生を見かけたこともある。それだけ身近で現実的な恋愛対象なのである。
「なんかあった?」断りもなく隣に腰掛けた迅がコーヒーの缶を差し出してきて言った。ボーダー内でも特に人気のないベンチでひとりぼんやりしていたことがよっぽど気になったと見える。

「毎日何かあるよ。いちいち気にしても仕方ないけど」
「なんだ、嵐山のことか。深刻そうな顔してたから……あれ? お前ら……すでに何かあったの?」
「何かって、何か見えたんだ」
「えっ、と……いや、まあ」

見えたのだという確信があったが、追及はしなかった。歯切れ悪く言い淀むようなことを問い質しても無駄だ。
この先、私と嵐山との間に何かが起こる。しかも良くないことが。それだけわかれば充分である気がした。迅が現れるまで考えていたことを振り返れば何も意外なことではない。

「嵐山にも浮気する可能性はあると思わない?」
「可能性だけなら誰にでもあるんじゃない? あいつは真面目な方だと思うけど」
「そうだね」
「やっぱ今日変だな。浮気してんの? 嵐山」
「そんなわけないでしょ」
「じゃあナマエが?」

呆れた。迅が割に本気で疑っていることは言葉の調子からわかった。私のどこをどう見ていたら浮気なんてすると思えるのか理解できない。
私がおかしいのだとしたら、若さゆえだろう。こうやって無駄に考える時間があるせいだ。忙しく働きまわっている間は考えずに済む。

「好きってだけじゃ上手くいかないわけよ」
「年寄りみたいなこと言うなぁ。嵐山は大丈夫だよ」
「わかってるよ」

迅からもらったコーヒーの缶を開ける。横目でその薄ら笑いを確認する。
最後に嵐山とこんなふうに過ごしたのはいつだったかもう思い出せなかった。

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