あの女に恋愛感情を抱ける人間もまた異常者だとしか思えなかった。ナマエをまるで普通の女のように扱い、優しく熱っぽい目で見詰めるなんてまともな神経の持ち主にはできっこない。
触れたら呪われると知っている無機物に誰が欲情できる? それが答えだ。
一見してごく普通のサラリーマンに見える藤永という男はナマエのことが好きで好きで堪らないらしく、ここのところ頻繁に店へやって来る。そしてナマエと卓を囲み、話し掛け、笑顔を向ける。
警告はしてやった。奇麗な女なら他にいくらでもいる。麻雀打ちでなければと言ったってまだマシな女が見つかるだろう。
しかし藤永は聞く耳を持たなかった。まあ、当然と言えば当然。藤永は別にナマエの見た目の美しさや技術に惚れ込んでいるわけではない。大抵の男が敬遠したくなるそういった不気味さの根源には気づいてすらいないのだ。
そもそも鈍すぎやしないかと思う。お前の対面に座る男は今夜にも破産しそうな勢いで金を溶かされているんだぞと言ってやりたい。ナマエという悪魔じみた女はまるで無害そうな顔をしてラスを引き薄っすら笑う。外から見ていると背筋が冷えて仕方ない。
自分が恨まれないように計算しているのか、と思っていたがおそらくそういった理由からではなく、単純にその方が多く金を搾り取れるからそうしているのだ。一度別の人間に金を吸い取らせ、それを脇から少しずつ回収していく。いや、時には大胆に毟り取っているが同卓者は気づかない。大金が右へ左へ移動し、熱くなっている人間には当たり前の光景に映るのだろう。
藤永は気づける筈なのだが、不思議なものだ。
「あの、ナマエという人はどのくらい前からここに通っているんですか?」
帰り際、藤永に訊ねられた。
なぜ教えなければならないのか。忘れたふりをして惚けると、藤永は困ったように眉尻を下げた。
金を持っているわけでも、頼り甲斐があるわけでもなく、ましてや麻雀が強いわけでもない。しかしナマエはこの男を大層気に入っている。
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MUKOUBUCHI/藤永太郎
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