よまいごと

29.5.25

OTHER/和泉守兼定

いったいこれで何度目? 何振り目? あと何回こんな下らないやり取りを繰り返さねばならぬのだろう。他の本丸では刀と懇ろになる審神者もいるらしいから、一振りくらいならわからないでもないが、この本丸は本当にどうかしているとしか思えない。次から次へと好きだ愛してると熱っぽく訴えられて、もはや自分の態度を反省する気も消え失せた。私がどれだけ気を使って生活し、適度な距離感を意識して接しても、私の努力を嘲笑うかのように彼らの頭はいかれてしまうのだ。

「他の女を知らないから勘違いしてるの、それは。性欲を恋愛感情と取り違えてるんだよ」
「なんだよそれ。こっちは真面目に――」

私は手で和泉守を制す。別にいい加減な気持ちで言っているわけではないことくらいわかっている。

「花街にでも行ってみたら納得いくから」
「馬鹿にするな」

和泉守は顔を赤くして唇を尖らせ、不満そうに視線を外した。
自分が間違っている可能性を提示されて頑なな態度を取るのは比較的若い刀に多く見られる特徴のような気がする。平安刀に錯誤を起こした者はいないから、生まれ年によって引き起こされやすいバグがあるのかも知れない。
これは麻疹みたいなもので、若い刀は皆罹患する病なのだと思うべきなのではないだろうか。彼らにも私にも罹患を防ぐ手立てはなく、対処療法しかないのだからどちらが悪いわけでもない、と考えればストレスも少しはマシになるというものだ。
部屋の入り口付近に立ちっぱなしの和泉守を見上げていると首が痛い。座ってほしいと伝えても言うことを聞かないので諦めて私が立ち上がる。
「はい、これ」と私は和泉守が部屋へ入ってきたのと同時に抽斗から取り出しておいた封筒を差し出した。

「なんだよ」
「お小遣い。これで社会勉強しておいで」
「なぁ、そんな区別もつかないと本気で思ってるのか、あんたは。迷惑なら迷惑だって言えばいいだろ」

今まで何度もこういうことはあったし、私がどういった対応をしてきたのかは多くの刀が知っている筈なのに誰も恋に暴走する男を止めないのかと思うと気が滅入る。ただいつまでも胸に秘められているとそれはそれで面倒に発展しかねないので、ある意味先達の親切心と言えないこともないところが厄介だった。
秋虫の声を聴きながら、私は訊ねた。

「じゃあ訊くけど和泉守は私とどうなりたいの? 何がしたいの?」

口を噤んだ和泉守に一歩近づく。お互いの熱を感じられそうなほど近くに和泉守がいる。
青緑の瞳を覗き込むようにして先ほどと同じ言葉を繰り返した。目的がないなら今と何も変わらない。
私は伸ばした手で和泉守の二の腕から手の甲までをそっと撫で下ろす。和泉守の体がびくりと震え、瞳に困惑の色が浮かんだ。
絡めた指先はしっとりと湿っており、体温の上昇と呼吸の乱れが素人目にも見て取れた。

「性欲じゃないの?」

瞳が揺れる。和泉守の表情がぐにゃりと歪んだ。
乱暴に手が振り払われ、責めるような押し殺したような声。

「それはあんたのことが好きだからだろ……? あんたは……俺のことをどう思ってるんだ?」

訊かずにはいられなかったのか。私がどう思っていようが、なんと答えるかは想像できそうなものなのに。
業務の中でこれが最も面倒で、憂鬱で、救いのない仕事だと思う。
確実に傷つけるとわかっていることをせねばならず、それからしばらくの間、私が傷つけた男が立ち直るまで、気まずい思いをしながら同じ屋根の下で暮らし、あれをしろこれはやるなと命令を下さなければならないなんて最悪だ。
いつも私だってつらい、と叫びたくなる。

「私は和泉守を他のみんなと同じように愛してる」

無言で出て行った和泉守の背中を見送って、部屋の襖を閉めた。
本当に疲れる。純粋な恋心を勘違いだと切り捨てる瞬間に、私の心もまた血を流していることを彼らは知る由もない。

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