掌の中

4.5.25

ELDEN RING/グラング

誇りを穢されたあの日に私の魂は一度目の死を迎えた。
この身を憎悪せずにはいられなかったが、それでも生き続けることに決めたのは、私のような者のためにまで祈りを捧げてくれる人々の信仰を守りたいと思ったからだ。
決して英雄になりたくて狭間の地を訪れたのではない。巫女を得たことは不本意であった。そして私にとっても彼女にとっても不幸な巡り合わせだったに違いない。
私は彼女の言うことを信じなかった。私が王の器でないことは自分自身が一番よくわかっていたから、彼女にも夢は見るなと言ったつもりだった。でもそれは大きな過ちで、私が彼女の信仰を著しく損なっていたのだと気づいたときにはもう手遅れだった。
人の心は容易く折れる。グラングと出会うことがなければただぼんやりと朽ちてゆく道を選んだかも知れない。ほら、私はお前が信ずるに値する人間ではないと土に語りかけている様が容易に想像できる。
門扉を潜った時点で神殿内の空気がいつもと違うことには気づいていた。死の根を持ち帰ってきた私を前に、グラングは苦しんでいるように見えたし、私は早々に立ち去るべきだったのだろう。彼と親しくなったつもりでいたのなら、尚更。
獣の息遣いと唸り声を耳元に感じて朦朧としていた意識がはっきりしてきた。
気づけばグラングの鋭い爪が皮の手袋を突き破って肉にまで達しており、腕が焼けるように熱く、全身が心臓になったみたいに鼓動していた。足に異常は感じられないがどれだけ必死に足掻いてもきっと逃げられない。逃げる意思が湧いてこないのだから当然だ。
私はこれまで半ばいつ死んでもよいと思いながら生きてきた。ただ自分の体に価値を見出せなかったがゆえに、本来なら成し得なかったことを成せたのだと考えれば既に不相応な偉業を遂げたと言えよう。

「悔いはありません。少しでもあなたの役に立てたのなら……あなたに殺されて終わるのなら嬉しいです」
「許してくれ……」
「許すも何も……私は……」

私はずっとこうなることを望んでいた。
死ぬことを、殺されることを、他でもないグラングに奪われることを望んでいた。
私はグラングの側にいると心が安らぎ穏やかでいられた。彼が自分とはまったく違う姿形をしていて、彼が、私よりもずっと重い苦しみを抱えていると知って以来、グラングのことが好きだった。矮小な私に期待せず、ちっぽけな存在であると認めてくれる獣の祭司が長年求め続けたものを与えてくれたのである。

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