ナマエは静かな女だ。それは雀卓についているときに限った話ではない。普段から必要最低限の言葉しか発しないし、忙しなく動き回る姿なんて見たこともない。二人きりになったら何を話すのか、何をしているのかと訊ねられても首を捻るしかなかった。
「何、と言われてもなぁ。いっしょにいるだけというか……」
「まさか麻雀以外の答えが返ってくると思わなかったわ」
最近になってナマエとの関係を聞きつけた青龍會の面々から同じような質問をよくされるようになった。皆彼女の意外な一面に期待しながらもどうせ麻雀漬けだと思っている。謎は謎のままであって欲しいという心理からなのか、ナマエという理解不能の存在について改めて確認することでやっぱりねと安心したいのかも知れない。
確かに周囲からすると麻雀以外のことをしているナマエの姿は奇怪に映るだろう。裏麻雀の世界では傀をはじめとして謎に満ちた人物というのは珍しくないが、その中でもナマエはよくわからない部類に入ると思う。寝起きを共にすることがあっても、起きたら跡形もなく消えていそうだと今でさえ不安になる。
「でも納得ねえ」
「え?」
「ナマエさんは麻雀強者に惹かれるタイプじゃなさそうだもの」
暗に下手と言われた気がしたが、目の前の女性が想定している強者というのは傀のような打ち手であることは明白なので、文句をつけられる筈もない。
「藤永くんお茶淹れるの上手くなったわよね」
「ナマエが好きなので。……いや、あの、惚気ではなく」
「わかってるわよ。きっとそういう甲斐甲斐しいところが彼女にとって魅力なのよ」
「雀力よりですか」
「卓上じゃみんな財布に見えるって言われても不思議じゃないと思わない?」
否定する必要もないので素直に頷くと、彼女は満足したように「でしょう」と笑った。安永六段も似たようなことを言っていたことがあるし、別段その認識が間違っているとも思わない。ただいっしょに過ごしているうちに、ナマエは金欲しさに麻雀を打つわけではなく、かと言って麻雀が好きなわけでもないことがうっすらとわかってきた。
薄野まで迎えに行った際、「麻雀しかないんです」と俯いたナマエの姿を思い出す。
給湯室から出て行く背中を見送りながら、二人きりになったらむしろ麻雀の話題は滅多に出ないと言ったって信じないだろうなと思った。
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MUKOUBUCHI/藤永太郎
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