ながしはえ

15.7.24

FKMT/赤木しげる

窓辺で雨を眺めていた私の側に膝立ちで距離を詰めた赤木はもう折れてくれてもいいだろうとでも言わんばかりの調子で「仲直りするか?」と言った。

「しなくていい」
「そんな冷たいこと言うなよ」

なんて自分勝手な人だろう。仲直りしたい、ではなく、仲直りしよう、でもなく、仲直りするか? だと? いよいよ私のことを舐めている。
赤木は、こうして膝を突き合わせていても一体自分の何が悪かったのかまったく理解していないらしいのだ。ともかく謝れば済むと思っているから私がいくら怒っていても緊迫感の欠片もない。
何度言っても通じないものだからいい加減こちらの方が間違っているのではないかという気がしてくるが、しょっちゅう怪我をして帰って来る人間を心配しないでいるなんてどう考えても無理だろう。怪我の程度だって少し転んだとか紙で指を切っただとかそんなものではないのだ。
昔、近所で飼われていた犬の葬式に立ち会ったときのことを思い出してみた。柴犬とコリーが掛け合わさったらしい短足の可愛い犬の葬式は飼い主である老婆と私のふたりで執り行ったのだが小さいながらに立派なものだったと記憶している。
聞けば轢き逃げだと老女は答えた。子ども同然に可愛がっていた犬を殺されたというのに淡々としている彼女が不思議でならず、憎くないのかと訊ねるも返ってきたのは悟ったような曖昧な言葉で、私は言い知れぬ苛立ちと悲しみを抱いた。犬は人間と違い、殺しても物損扱いとなることを知ったのはそのときだった。
元気に庭を走り回っていた犬の姿を思い浮かべると意外と簡単に涙が湧いてくる。十分に涙が溜まったと感じたタイミングで瞬きする。ほの温かい液体が頬を伝っていく。この涙が偽物であることくらい赤木はすぐ見破るだろう。でも、そうだとしても私は泣かなければならない。

「泣くほどのことなのか?」

視線を向けた先の赤木は珍しく動揺しているように見えた。

「……あんたにそこまで好かれてるとはな」
「好きじゃなきゃ部屋に入れたりしないよ。私のことなんだと思ってるの」
「それはそうなんだろうけど、他人に入れ込むようには見えない。特に俺みたいなのには」

やはり人を見る目は確かなようだ。赤木の言う通り、面倒を持ち込みかねない人間と深く関わり合いになるなんて本来であれば拒否している。ヤクザも、賭博も、刃傷沙汰も御免だ。私の人生には必要のない刺激である。
トタン屋根を雨粒が叩く音が大きくなり始め、窓から雨が吹き込んできた。雨戸と窓を閉めると室内の光量がぐっと落ちて空気まで重たくなったように感じた。

ナマエ。俺が喧嘩はやめるって言ったら機嫌直してくれる?」
「怪我するなら意味ない」
「わかった。じゃあそういう約束はしないけど怪我しないように努力するってことでどう」
「しげるくん」
「ん?」
「……それでいいよ」

怪我をしなくなったら私のところには来る理由がなくなるな、と一瞬考えたがその方がお互いのためだろう。手の甲を擦る指先に視線を落としこっそり息をついた。温かい手が手首、肘を辿り二の腕まで登ってくる。どうせならもう少し困らせてやれば良かった。

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