※ショゴス
彼が本物の亜双義一真でないことはすぐにわかりました。見た目は瓜二つでしたが体捌きがまるで素人のそれでしたから。
でも私は別人だと理解して尚、彼を亜双義一真として扱いました。彼が「追われている」と言うので家に匿い、「愛している」と言うので口づけを交わし、一真さんと呼びました。なぜそうしたのかはおわかりになるでしょう。亜双義一真の訃報はそれだけ私の心を傷つけたのです。誰の言葉も聞きたくないし、見たくないと自身の殻に閉じこもってしまいたくなるほどには苦しくて、悲しかったのです。
私にとって彼が何者なのかはさほど重要な問題ではありませんでした。どうせ本物は二度と帰ってこないのです。私の前でだけ「亜双義一真」でいてもらうことの何がいけないのか、私にはわかりかねます。
実は地方へ移住する計画も立てていました。彼や私を知っている人間のいない土地でなら、二人とももっと自由に生活ができると考えてのことです。そうです。彼の事情だけが問題なわけではありませんでした。私は家族から結婚を勧められていました。亜双義一真が存命の内はそれとなく言われる程度でしたが、彼が死んだと知れた途端の両親や兄弟の勢いたるや。
決して家族に悪人はいません。少なからず私を思ってのことだということもわかります。ですが、彼らは最初から私と一真さんが結ばれることはないと決めつけていました。私の気持ちは尊重してくれていましたが、私がどれだけ彼のことを愛しているかは理解できなかったようです。私は昔から自分の気持ちを表に出すのが苦手でしたので無理からぬことでした。
そういう意味では、あの亜双義一真はよく私のことを理解していたと言えます。正直、彼と暮らし始めてから驚かされることが多くありました。前述の通り、見た目は瓜二つなのです。表情の作り方や、言葉選びや、眼差しの温度は本物に見まごう出来でした。動きが少なければ少ないほど私の脳は混乱を覚えました。
彼は私の欲しかった言葉を次々に与えてくれました。「愛している」「ずっと側にいてくれ」「何よりも大切だ」。本物の亜双義一真が口にしたことのない言葉です。そして、お願いしてもしてくれなかったことも、いろいろと、彼がしてくれました。とても嬉しかったです。一時でも悲しみを忘れることができました。
こう言うと矛盾しているように感じられるかも知れませんが、それでも私は現実から目を背けていたわけではありませんでした。彼が本物ではないとはっきり理解していましたし、亜双義一真が亡くなった事実も受け止めていました。だからそれほど深刻にならないでください。彼がそれほど長く私の側にいられないことは察していました。だって、どう考えても彼は人間ではありません。人間だと仮定しても同じことですけれど。
早々上手く誰かに成り代わることなどできる筈がない。私も騙されはしませんでしたし。
実に残念です。心の底から残念に思います。私は亜双義一真の死を知らされたときに狂ってしまえたら良かったのです。それがみんなの幸せでした。
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