Full summer

20.7.23

WORLD TRIGGER/諏訪洸太郎

私の膝を優しい手つきで丁寧に洗う諏訪くんのこめかみに伝う玉の汗を見て、今日は暑いなと思った。それまでなんとも思っていなかったのに二人して黙っていると急に蝉の声が五月蝿く感じだしたりして、不思議だった。

「そこのベンチ座って足出せ」
「はーい」

顎で指し示されたベンチに腰掛けびちゃびちゃの右足を前に伸ばす。砂と血がすっかり洗い流されたそこは思っていた以上に悲惨な状態であることがわかった。小学生だってもう少しマシな怪我の仕方をすると思う。

「夏で良かった」
「……冬もすっ転んでただろ」
「いやいや」

転ぶのは、夏とか冬とか関係ない。春夏秋冬私が怪我をしていないときはなく、問題はその程度である。去年の冬は凍結した路面で足を滑らせひっくり返ったものの軽い打撲で済んだ。あのときも諏訪くんは血相を変えて飛んできた。もう何度目になるか知れないのに、人間がド派手に転倒する様はいつでも新鮮な驚きを齎すことができるらしい。不謹慎ながら諏訪くんがめちゃくちゃ焦っている様子を見ると私は我慢できずに笑ってしまう。一瞬で怪我の痛みなんか吹っ飛んでいく。そして怒られるまでが様式美と化していた。

「諏訪くんって面倒見がいいよね」
「お前の面倒を見られる人間が他にいねえからだな」
「私に限った話じゃなく」
「それは別に普通だろ」

絶対普通ではない。諏訪くんが普通なら私の家族は異常ということになってしまうから普通では困る。

「後輩に慕われてるでしょ。同じ部活とか委員会に諏訪くんみたいな先輩がいたら私も嬉しいもんねー」

諏訪くんは、雑に振り掛けた消毒液を適度に拭ったあと、大仰な絆創膏を私の膝頭に貼った。諏訪くんの手の温度が離れてゆくと肌に纏わりつくのは夕暮れ時のねっとりとした空気だけになる。
今回のお礼は何が良いだろう。
指先でトートバッグの底をつつきながらぼんやり考えた。私のためにあれこれ出費しているのに、彼はいつも代金を受け取ろうとしない。折に触れ、これ以上バイトを増やすなと言ってくる辺り困窮していることを察しているのだと思う。転んでいるところを見られるよりよっぽど恥ずかしい。
私は爪先の合皮が少し剥げたサンダルを履き直し、バッグを肩に掛ける。手を差し出してきた諏訪くんの顔を見上げていると、一瞬二人の間になんとも言えない空気が流れた。

「帰るぞ。手ぇ出せ」

私は大人しく諏訪くんの手を握って立ち上がる。手はすぐに解かれてしまって少し寂しかった。

「おぶってやろうか?」
「暑いからいい」

諏訪くんは私の本心に気づいているだろうけど、それ以上追求してくることはなく「ふーん」と言ったきり黙っていた。私が「帰ろう」と言い出すまで黙って私の隣に立っていてくれた。

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