Future Mirror

13.6.23

Matinee & Soiree/三ツ谷御幸

相手は芸能人で、一世を風靡する人気役者であり、世間では変わり者だと専らの評判である。あらゆる人間から畏怖、羨望、憧憬の眼差しで見詰められる彼は非常に魅力的だ。私に限らず誰だって惹かれるだろう。一瞬くらい胸をときめかせたって罪にはならない。でも、だからこそ、本気で好きになるなんて馬鹿げていると理解していたから、自分の気持ちは一種の熱病だと誤魔化し続けてきた。
私はミラー越しに運転席の迫中さんを見る。この気まずさをなんとかして欲しいと思ってのことだったが彼はこちらの話など聞こえていないかのように運転していた。

「あの、私より三ツ谷さんに相応しい人はたくさんいると思います……」
「僕が好きなのはナマエさんなんだって」
「でも……」

到底うまくいくとは考えられない。
三ツ谷御幸の私生活に自分が介入している様子がまったく想像できないのだ。

「僕のこと嫌い?」
「嫌いだなんてそんなことありません」
「じゃあ恋人にはしたくない?」
「いえ、その、三ツ谷さんに問題はないです……。付き合ってみてがっかりされたくないというか……私、なんで気に入ってもらえたのかわからないんです……」
「何度も言うようだけど軽い気持ちじゃないよ。がっかりするなんてあり得ない」

その自信はどこからくるものなのか、と問い掛けてみたかったが何を考えているのかまったく読めない瞳に見詰められて声が出なかった。車内の空気が緊迫している。いや、迫中さんはまるで空気のように振る舞っているし、三ツ谷さんが緊張しているとは思えないから気のせいなのかも知れない。私自身が居た堪れない気持ちでいっぱいで、逃げ出したいと思っているから威圧されているように感じるのだろう。
そう、今ならまだ逃げられる。別に脅されているわけではない。付き合ってほしいと言われただけだ。ここで私が断っても三ツ谷御幸には次がたくさんあるわけだし、私はすぐさま彼の人生から消えることができる筈だ。
彼が他の誰かと恋人関係になっても、結婚しても、仕方ないと諦められるくらいの分別はある。私にだって三ツ谷さんじゃないと駄目な理由はない。

「ごめんなさい」

実に贅沢な人生だと思った。

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