前夜

12.5.23

PKMN/セイボリー

私からしてみたら、セイボリーは十二分に凄い。どんなに努力したところで、私は念力なんて使えるようにはならないだろうし、彼ほど努力家にもなれない。
いつだったか、努力せずしてバトルの才能があるなんて羨ましい限りだとセイボリーは嫌味っぽく言ったけれど、彼が私を羨ましがるなんて大きな間違いだ。彼はジムリーダーになりたくて修業をしている。私は日銭を稼ぐためにポケモンバトルをしている。目的がまったく異なるのだから自ずと戦闘スタイルも違ってくるし、過程や結果にどんな意味を見い出すかも同じわけがなかった。
私にはセイボリーの悔しさはわからない。生い立ちから、性格から、何から何まで違いすぎる。そこが面白いと思ってはいるのだがここ数日のセイボリーはナイーブになっているのか普段より扱いづらく、なんとなくおかしな感じがした。

「セイボリー。そろそろ道場に戻ったら。朝早いんだし、ちゃんと眠らないと」
ナマエはこれから走り込むんでしょう? 負けるわけにはいきません」
「私のは走り込みじゃなくてルクシオの散歩だってば」
「でも……実際走っているじゃないですか」

別に走りたくて走っているわけではない。コリンクから進化したばかりのルクシオがなかなか眠りたがらないから致し方なく夜間もボールから出して体力を発散させているだけだ。正直ここまで手がかかる子は初めてで少し疲れている。
私はルクシオをボールから出し、抱きかかえた。きょとんとしたルクシオの表情を見ていると自分の才能なんて高が知れていると思った。

「んー、ここのところセイボリーちょっと変だし、心配だなぁ。新しい人って明後日来るんでしょ? いじめないようにね」
「失礼ですね。ワタクシをなんだと思っているんです? 心配だなぁはこちらのセリフですよ。あなたこそ雪原に行くのは初めてだということをお忘れなく。ドジを踏んでもワタクシは助けられませんからね」
「確かに」
「ふ、不安にさせるような言い方はおやめなさい!」

それほど長い付き合いではないが、セイボリーと出会ってから今日に至るまでずっと行動を共にしてきた。考えてみると別行動になるのはこれが初めてか。
人生で崖から落ちかけた回数はぜんぶで三回。その内二回はセイボリーが助けてくれて、内一回は地面まで落下して足の骨を折った。よく考えなくても彼がいなかったら二回死んでいそうなものだった。

「まあ、言いたいことはなんとなく理解した。ありがと。こうしてると後ろ髪引かれるし、やっぱり今日はもう解散しよ。私は日が昇り始めたらすぐ出発するから今晩は寝ないと思うんだよね」
「……空から落下なんて洒落になりませんけど」
「セイボリーがジムリーダーに任命されるまでは死なないから安心して」
「それはフラグなんですよ! いいですか、右見て左見てもう一度右を見たら足元も確認してくださいね!」
「わかったよー。セイボリーも怪我とか病気に気をつけなね」

私はルクシオの前足を掴んで「バイバイ」と手を振った。
セイボリーは渋々といった様子で何度もこちらを振り返りつつ道場の方へ歩いて行く。彼はオーバーワークという言葉を知っているだろうか。いや、マスタードさんがついている限りセイボリーのことは大丈夫だと思おう。
暴れ出したルクシオを地面に下ろして通信機の電源を入れる。
冠雪原のフィールドワークは気が重い。いつ帰れるかもわからないなんて私にとっては不吉極まりない任務だ。

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