乾いた指で剥き出しになった御幸の肩をなぞる。長い睫毛に縁取られた二つの瞳は固く閉ざされており、御幸が目覚める気配はない。
目を覚ましてほしいような、このまま眠っていてほしいような曖昧な感情に頭の中がうっすら曇る。
指を肩から首筋、鎖骨へと滑らせいくと御幸が小さく身動いだ。起きたかと思ってじっと待ったがすぐに規則的な寝息が聞こえ出す。
こうやって意味もなく触れることができるのは私だけの特権だ。普段は努めて考えないようにしていることだが優越感を抱いていることは紛れもない事実だった。
私の指先は誰かに羨まれているだろう。知らない誰かは私の存在を疎んでいるだろう。そんな考えを気持ち良く感じることもあるが、大抵は頭に過ぎった瞬間から自己嫌悪と不安に苛まれる。
他人の想いなんてどうでもいいと思いたいけれど簡単に割り切ることができなかった。
凡庸な自分。常にいっぱいいっぱいで余裕のない自分。いったい誰と比べているのか、時々わからなくなる。
一個人としての御幸を知らなければよかった。御幸が液晶やカメラを隔てた向こう側にしか存在しなかったら、私は私に相応しい幸せを手にしていた筈だ。現状は身に余る。
御幸と出会う前の私はここまで卑屈ではなかった。仕事は順風満帆そのものだったし、人間関係にも恵まれていた。私より優秀な人やとても真似できないような才能を持った人と接する機会はあったものの芸能界なんてそんなものだろう。業界に飛び込む前からわかり切っていたことだったので特に何も感じなかった。
無駄な贅肉や筋肉のついていない滑らか身体に指を這わしていく。毛布に隠れるその直前まで下り、また首の方へと上っていく過程で手のひらを軽く押し当ててみたりした。
横になっていても一向に眠気が訪れない。
私は御幸を起こさないようそっとベッドから起き上がり冷たいフローリングに足を下ろした。

「……眠れないの?」

御幸から声をかけられたことに驚き上半身をひねる。彼は真っ直ぐ私の目を見詰めたまま手を握ってきた。

「御幸くん」
「冷えるよ」

起き上がった御幸がベッドサイドの灯りをつける。密着するように体を寄せられてさらに強く手が握り込まれた。

「起こしてごめんね」
「物足りなかった?」
「いや……」

曖昧に返事をすると御幸は「そう」と言って私の腹部に空いている方の腕を回す。横目で時計を確認すると時刻はもうすぐ三時になるところだった。
「ささくれ」と御幸。薄暗い部屋の中で掴まれた指先は確認できない。気を使っているつもりなのにいつからだろう。

「可愛い」
「御幸くん」
「毎日同じベッドで寝ることになったらナマエが寝不足で死んじゃいそうだね」
「なんで?」
「考え過ぎで」

心臓がぎゅっと締めつけられる。

「もう一回する?」

御幸は私の髪に顔を埋めて小さく笑った。ぜんぶ知っているとでも言いたげに。
首筋に唇が触れ、湿った音がする。私は振り返ることができない。疲れたら眠れると言う御幸の声が実に楽しそうで、羞恥心からつい俯いてしまった。

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