Strawberry

10.7.21

YU-GI-OH/ブルーノ

昼下がりのポッポタイムにいつもの活気はなく、キーボードをタイプする音だけが不規則に聞こえてくる。スロープを下りながらブルーノの横顔に声をかけるとその音がやんだ。

「ごめん。邪魔した?」
「そんなことないよ。ちょうどキリの良いところ。今日はどうしたの?」

私は手に持っていた正面にケーキ屋のロゴが入った黄緑色の箱を見せながらブルーノに近づいた。ブルーノが椅子を斜めに押して、こちらを向く。いつも見下ろされているので逆に見下ろすというのは新鮮だ。

「遊星は?」
「あ、遊星に用事があったんだ?」
「ううん。そうじゃないんだけど遊星とブルーノに差し入れ、と思ってケーキ買ってきたから」

おやつにしようと言うブルーノに続いて階段を上り、二階に上がるとポッポタイムがやけに静かな理由がわかる。どうやら私たちの他には誰もいないらしい。
ジャックとクロウが留守にしていることは聞いていた。と付け足すとブルーノは「なるほどね」と笑う。

「遊星も遅くなると思うよ。Dホイールのパーツを探しに行ったんだけど目当てのものが見つからなかったから足伸ばすってさっき連絡があったんだ」

こんなに人がいないポッポタイムはそうないだろう。二人きりであることを意識すると少しどきどきするがブルーノの方は特に何も感じていなさそうだった。
ブルーノが薬缶を火にかけるのを見て、私は食器棚から飾りのない真っ白な皿と銀のフォークを二つずつ取り出した。それから買ってきたケーキをそれぞれの皿に載せ、遊星の分は冷蔵庫にしまう。ついこの間来たときより冷蔵庫の中身がかなり減っていた。男所帯だから食料の消費が激しいのだろう。
私は先に食卓についてブルーノを待つことにした。薬缶から漂ってくる湯気をブルーノ越しに眺めながらぼんやり考える。ブルーノもずいぶんここに馴染んだようだ。

「これ、ナマエの新しいマグカップ。前のが割れちゃってから来客用の使ってたんでしょ?」

差し出された紅茶の入ったマグカップを受け取る。シンプルな白いマグカップに黄色のラインが一本。ブルーノの持っているマグカップを見るとそちらには青いラインが一本引かれていた。

なんだか、ちょっと変だ。そう思ったのはイチゴのショートケーキを二口食べた後のことだった。私はかすかに首を捻る。こんなにもブルーノと喋れなかっただろうか。
沈黙はまったく苦ではないが少々違和感がある。赤いイチゴから正面に座るブルーノに視線を移すと彼もこちらを見ていたようで目が合った。
慌ててブルーノの手元に視線を落とすと一口目でフォークが止まっていることに気がつく。ほとんどのケーキが売り切れていたため、三つとも同じものを買ってきてしまったのだが、もしかすると生クリームが苦手だったのかも知れない。

「美味しくない?」
「え? 甘さ控えめですごく美味しいよ」

ブルーノが二口目を口に運ぶ。美味しそうに食べる様子を見てほっとした。

ナマエにイチゴあげる」

前ぶれなく目の前にフォークに刺さったイチゴ。身を乗り出したブルーノが食べろと催促するようにそれを口へ押し付けてくる。口を開けるよう言われて恐る恐るイチゴを食べると口いっぱいに甘酸っぱさが広がった。
――生クリームは平気だけどイチゴは嫌い?
突然のことに戸惑いながら満足そうに紅茶を飲むブルーノを見る。未だにイチゴを味わっている私が何を言いたいのか、わかったのだろう。ブルーノはケーキをフォークで切りながら言った。だってナマエはイチゴが好きでしょ、と。確かにその通りだが言っただろうか。遊星、いやクロウが教えたに違いない。

「ありがとう。でも、ブルーノにもイチゴ食べてほしいし私のイチゴはブルーノにあげるよ」

そう言うとブルーノがきょとんとしてそれじゃ意味がないんじゃない?と言ったがそんなことはない、と思う。
私も身を乗り出してブルーノの口にイチゴを届けるべく腕を伸ばした。ブルーノは腕も長くて羨ましい。口の方から来てくれなければ私のイチゴは私自身が食べることになっていただろう。

「美味しい?」
「すっごく美味しい」

大したことではないのにやり遂げた達成感がある。私の顔はひどく緩んでいたような気がしたが幸い今日はブルーノと私の二人きりだ。
いつもの賑やかな感じも良いけれど、こういうのも悪くない。おそらく私が感じた違和感は、違和感というよりもいつもと違う状況に気後れしていただけなのではないだろうか。
私ははにかむブルーノをちらりと見て、残りのケーキにフォークを立てた。

NAME CHANGE

TEXT

QooQ