気づけばドアも窓もない灰一色の部屋の中にいた。こんな何もない部屋でこれから怪異が起きるとでもいうのだろうか。壁を撫でても押しても特に変わった様子はない。
「なんなのここ」
隼はさっきから壁に両手をついて前屈みになっているし、私はどうするべきだろう。
天上が低いので落ちてきたらあっという間に潰れてしまうなぁと思いながら腕を組む。ひとりで考えていても埒が明かないし、とりあえず隼と作戦会議をした方が良いかも知れない。
相変わらず壁に向かっている隼の背中を指でつつく。すると大げさなほど体を跳ねさせた隼が勢いよく振り返った。
「ちょっ、なに……? びっくりした」
私が軸足を踏み替えるとそれに合わせて隼の体がほんの少しずれる。隼が、何かを隠した。
ぴったりと背中を壁に押し当てて一定の場所から動こうとしない。言葉で訴えるより先に退かそうと試みるも体格差に邪魔されて成果は上がらなかった。
私たちは謎の部屋から脱出するために協力し合うべきなのに隼の頑な態度はなんなのだ。私が隼を睨みつけながらいいかげんにしろと地面を踏むと目を逸らされる。
「隼!」
「……ここに脱出方法が記されている」
「…………じゃあなんで隠すの」
ここを出る方法が記されているなら真っ先に知らせるべきだと思うのだが。それを隠すというのはどいうことだ。隼の考えていることがわからない。そこまで言ったのなら退いてくれるのかと思えば退かないし、嘘をついているのだろうか。別に退かなくてもいいのだけれど、それならその脱出方法とやらを教えてほしい。
私が詰め寄ると隼は諦めたように背中を壁から浮かせた。どこもかしこもつるりとしていて継ぎ目すら見当たらなかった部屋の壁に穴が空いている。直径五センチほどの丸い穴だ。ちょうど私の目線の高さにあったそれを覗き込むと確かに脱出方法が記されていた。
「試してみようか」
「だから嫌だったんだ」
少しは悩んだらどうだと言う隼には悪いが、私たちには本来悩んでいる暇すらない筈だ。
「隣人にキスせよ」だなんてふざけるのも大概にしてほしい文言も試してみる価値はある。
「それじゃあ目を瞑って屈んでくれる?」
「待て。逆だろう」
正直どちらでも良かったため、それで隼が納得するなら構わなかった。あっさり瞼を下ろした私に隼が戸惑っている気配が伝わってくる。
私とキスするのは嫌だとごねられるのかと思ったのにそういうわけではないらしい。両肩に重みが加わり、やや間があって、隼のぬくもりを感じた。
目を開けると太陽の光に土の匂い。元いた場所へ戻ってきたことがわかる。
隼の方を見るとどんどん私から遠ざかって行こうとするので「おーい」と呼び止めたが歩みはとまらなかった。
乾燥し気味の唇を舌で舐める。
いきなり唇にするとは思わなかった。
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YU-GI-OH/黒咲 隼
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