不協和音

10.7.21

YU-GI-OH/黒咲 隼

幼なじみの命令で黒咲隼という男を見張ることになったが、これではまるで家政婦だ。部屋の掃除や食事の準備、そんなあれこれをなぜ私がしなければならないのだろう。
黒咲の方は最初こそ文句を言っていたけれど割り切っているのか私が近くにいてもいなくても関係なさそうにしている。まるで見えていないかのような態度だった。
私は食器を棚に戻しエプロンを丸め適当に鞄へ押し込む。ベッドに腰掛けデッキをいじっている黒咲に声をかけるが応答はない。それじゃあまた明日。そんな言葉が部屋に虚しく響いた。
また明日もここにこなければならないなんて。思わずため息が出そうになる。勢いに流されて引き受けてしまったが、レオコーポレーションの力があればいくらでも信頼に足る人間を雇い、黒咲を見張らせられただろう。
年近い女を使うことで黒咲に配慮しているとでもいうのか。ばかばかしい。
万が一のことがあっても私にどうこうできるとは思えない。腕力でかなう気はしないので、手段としてはデュエルでねじ伏せるしかないのが問題だ。

「黒咲隼」

名前を呼ぶと珍しく目が合った。

「お願いだから面倒事は起こさないでよ」
「お前の言う面倒事とはなんだ」

お前。
その呼び方にカチンとくる。なぜ私がこの男にお前呼ばわりされなければならないのか甚だ疑問である。私にはなまえという名があるし、最初に名乗った筈だ。
私は若干苛つきながらも例えば私のいない間に部屋を抜け出して外を徘徊したり、と言ったが黒咲に鼻で笑われ話し掛けたことを心底後悔した。
マネキン相手の家政婦だと割り切ってさっさと帰れば良かったのだ。そうすればこんな不快な目に遭うこともなかった。

「お前はまた明日くると言って帰ろうとしていたくせにそこからが長いな」

黒咲は無表情でそう言った。
別に長いというほどでもない気がするが、こいつは長いと感じるくらいに私のことをうざったく思っているのかも知れない。
まあ、それならそれでいい。こんなのに好意を持たれるよりマシだ。
特ににやつくでも、眉を顰めるでもなく淡々と「まさか名残惜しいなんて言うまい」と言った黒咲に「あり得ない」と返すのは実に簡単だった。
それはほぼ反射的に口を突いて出てきた。
あとになっていっそ馬鹿野郎と罵ってやれば良かったと気づくが、この日の会話はこれで打ち止めとなり、部屋の扉は静かに閉まった。

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