檻は夢幻の彼方より

9.7.21

YU-GI-OH/パラドックス

ナマエ、ここはどこだ」

そんなことは私の方が知りたい。
灰色の壁、灰色の天井、灰色の床。継ぎ目のないまるで箱のような部屋。パラドックスが立ち上がると頭が天井に擦れそうなので一辺はニメートルくらいか。
目が覚めたら突然こんなところにいて――これが現実なら頭がおかしくなったのだと思う。
壁を凝視するパラドックスに向かって呼びかけても無反応。私は三角座りをしたまま床を人差し指でなぞった。その生々しい触覚が夢という可能性を否定してくる。
いつまでパラドックスとこんな狭いところに詰め込まれていなければならないのだろう。そう考えると一瞬で憂鬱になれた。

ナマエよ、ここから出たいか?」
「……そりゃあね」
「そうか。ならば試そう」

何か思いついたのか。
私が顔を上げると目の前までパラドックスの無駄に整った顔が迫り来ていた。驚いて体を反らしたがすぐに背中が壁とぶつかり血の気が引く。肩と頬に添えられた手を私は勢いよく振り払った。こいつは突然何をしようとしたのだろう。いや、知りたくない。
パラドックスは訳が分からないとでも言いたげな表情をしているが私はもっと訳が分からなかった。どうしてこの状況で脱出云々という話になるのか。

「書いてあるのだよ。この部屋から出たければキスをしろ、とな」

パラドックスがぴっと指差した先には貼り紙がしてあった。体をずらして全文読める位置に移動すると確かに、パラドックスの言った通り書いてある。こんなコピー用紙に手書きされた言葉をパラドックスは割と信じているらしい。
冗談でしょ? と訊ねても決してうんとは言わなかった。
取っ組み合いは、どう考えても私の方が不利である。しかしどうしてもキスを回避したかった私はいつの間にか渾身の力で腕を振り上げていた。

「……ご、ごめん」

二人の動きが止まる。ひっかき傷のできた頬を指で確かめた後、パラドックスは無言で手のひらを見つめていた。
もう一度謝辞を述べたところでパラドックスがにやりと笑う。こちらを見たかと思えば傷を撫でた指先が私の顎を捉えたが、今度は拒否することができなかった。
パラドックスも承知しているのだろう。距離が縮まる。
吐息が絡まるほど近い。パラドックスは至極楽しそうな表情で「背中にも同じように爪痕を残してくれたら許そう」なんて言うから、私は。
舌が抜かれ二人の唾液が稜線を描き消えてもパラドックスの顔をまともに見ることができなかった。
悪い夢だと思いたい。でも私たちは灰色の部屋にいた記憶を共有しながら見慣れた研究所の一室に座り込んでいた。

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