ホーム
/
YU-GI-OH/ブルーノ
/
ナマエは夜の海を泳ぐようにやってきた。彼女のDホイールは、改良に改良を重ねた結果、本当に静かで音がしない。
ポッポタイムの前でブルーノが片手を上げるとその目の前でナマエが停車する。ヘルメットを脱いだナマエが背の高いブルーノの腕を引き屈ませ、赤くなっている鼻を摘んだ。彼女は苦笑いを浮かべながら中で待っていれば良かったのにと言ったが二人きりで話すために外で待っていたのだからそれでは意味がない。
「みんな、気を遣うでしょ?」
愛車を降りたナマエは「そうだね」と言ってブルーノの隣に並んだ。
背後に部屋灯を受けながら二人でぼんやり空を見上げる。雲に隠れて月も、星も見えない。まるでブルーノが話し出すのを急かしているかのような天気だった。
「どこか遠くまで行って朝日でも見たい気分」
「見えるかな」
「……だめかもね」
ナマエはブルーノの方を見ずに話す。
ブルーノは凍えそうなほど冷たい風を頬に感じながら言った。
「僕はナマエが好きだ」
「うん」
「でも、好きになれば好きになるほど不安になる。何かが僕に言うんだよ。ナマエの側にいたらいけないって」
それは悪魔の囁きだと思った。しかしなぜかそれは正しいように思えてならない。漠然と、自分が側にいることでナマエを傷つける未来を感じるのだ。
ブルーノは隣に立つナマエの様子を窺った。ナマエは白い息を吐き出しながら薄目で正面を見ている。
彼女は知ってたのだろう。ブルーノに不安があることなど、とっくに。
ナマエはブルーノを見上げて微笑む。その表情からは悲しい別れを予感していることが窺えた。
「いつか傷つくことになっても今は側にいてよ。私だってブルーノのこと好きだよ」
本当にそれでいいの?という言葉にナマエは頷く。ブルーノはそんなナマエを見て、焦燥感を覚えたが、同時に安堵したのも事実だった。
「たぶん、ナマエは受け入れるってわかってた……」
「正直だね。黙ってればわからないのに」
「それは狡いよ」
「もう充分狡いんだよ」
ナマエはかすかに語気を強めた。真っ直ぐな瞳が濡れている。これからも彼女は静かに傷つくのだと思うと、謝罪の言葉は喉につかえて出てこなかった。代わりに短い吐息が溢れ、寒夜に溶ける。
じゃあ中に入ろうかと家のドアに手をかけたときのナマエは既に普段通りで、寒さで赤くなった頬だけが妙に印象的だった。