黒く焼け焦げたアパートだったものの残骸を撫でさすると、心に隙間風が吹き込んでくるようだった。私は白み始めた東の空に向かって長い息を吐く。朝靄に溶かし込めるだけの悲しみや憤りももはや残っていない。
アカデミアの人間は私からありとあらゆるものを奪っていった。家や、学校、家族や友人。そして私がもっとも大切にしていた黒咲隼との静穏な関係すらも。
「ナマエ、ひとりになるな」
「私のことは放っておいてよ」
彼は私がキャンプを抜け出すことを許さない。それがたまらなく息苦しかった。
「俺の気持ちがわからないお前じゃないだろう」
「わかるから、だから、やめてって言ってるの」
「なぜだ」
なぜ? それは、私が瑠璃じゃないから。
「俺のことが嫌いか?」
私は首を横に振る。
「理由を言いたくないならそれでもいい」
「自分のことは自分でなんとかする。隼は瑠璃のことだけ考えてなよ」
「それはできない」彼はもともと、私に対してこんなことを言う男ではなかった。「俺にとってナマエは瑠璃と同じくらい大切な存在だ。失うわけにはいかない」
黒咲隼が悲しげに目を伏せる様子はずいぶん様になっていた。何も知らなければ勘違いしただろう。だが黒咲隼は決して私を特別に想っているわけではないということを私はすでに知っていた。
正直、手慰みに構われるのは迷惑だ。
彼が私のことを守ってくれた試しなんて今までに一度だってない。私と瑠璃が同じくらい大切だなんて嘘。いちばんは必ず瑠璃だった。
「戻るぞ」
守ってくれなくてもいいのだ。そんなことは望んでいない。望んだこともない。
「ナマエ」
二番手扱いなら、ずっと二番でよかった。
「ナマエ、夜が明ける」
気づかずにいられたらどんなに幸せだったろう。
瑠璃がいなくなった。いちばんがいなくなった。その事実は一瞬にして私の醜さを浮き彫りにしてしまった。
私はずっと二番でよかったのに。
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