Over And Over!

10.6.21

WORLD TRIGGER/太刀川慶

あ、宙を舞ってる。私の腕。青い空を背景にシルエットになる。
気がついたときにはマットの上だ。
模擬戦なのだから当たり前なのだけど、からだは五体満足。欠けなく修復されている。もちろん飛んでいった腕も元通りくっついていた。くっついてはいるがしかし、すごく嫌な感じがする。今すぐに、この瞬間にでも私の腕が引き千切られてしまいそうな奇妙な空気が存在するのである。からだの中がじわじわと黒で満たされていく。
本当に腕がなくなる心配はないのになぜだろう。いや、逆だろうか。なくならないからこそ怖い、とか。
私は大急ぎでブースを出て換装を解く。隣のブースから出てきた太刀川慶は私の姿を認めて嗤った。

「なんで? もうお終い?」
「帰ってレポート書かなきゃ。太刀川くんも、たまには真面目にやりなよ」
「もう一戦付き合ってくれたらそうする。換装してくれ」

誰が相手でも良いってわけじゃないんだから。太刀川慶は言った。やっぱりだった。
「今日は疲れた」なるべくなら今後も太刀川慶の相手はしたくない。おそらく逃げ切れないだろうが。
太刀川慶の視線が私の腕に注がれていることに気がつき、さりげなく両腕を背後に回す。背中で手の指を組む。そこがじっとりと汗をかいていた。「今日はありがと。じゃあね」
私は太刀川慶の脇をすり抜けて正面玄関へ向かう。シャツの裾から入ってきた風が汗で冷えた背筋を舐め上げていく。
本人に直接訊けるわけ、ないじゃないか。否定されても肯定されても信じられないし、なんと言われようが一度芽生えた恐怖心を払拭するのは難しい。
太刀川くんはどうして私と模擬戦したがるの。心中で、記憶にある太刀川慶へと問いかけてみる。もちろん彼は答えなかった。私が黙っていて欲しいと念じているのだから当然だ。
純粋に模擬戦がしたいだけじゃないんでしょう。他に目的があるんでしょう。
その答えは絶対に聞きたくない。廊下を歩いているうちに拒否感が強まっていた。私には受け止められない。
玄関を出たところで端末が着信を告げた。鞄の中で緑色のランプが点滅している。メールは太刀川慶からだった。
『明日の講義が終わったら続きしよう。待ってる』
昨日までの私だったらすぐにでも返信していただろう。それも嬉々として。太刀川慶に認められていると思うと、嬉しかったのだ。

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