今朝方開花したばかりの紫色の花に顔を寄せ、マサキは肺を膨らませる。
「良い匂い」そう言って緩ませた目元には濃い隈が浮かび上がっていた。
私は小さく溜息をついて霧吹きを棚に戻す。どうやらマサキには遠回しな言葉が通じないらしい。はっきり来るなと言うまで通い続けるつもりなのか。マサキの入室を許可したのは大きな間違いだった。
「マサキ」
ここにあるほとんどの植物には毒がある。気取られても困るので注意はしないが、本来ならば不用意に触ったり嗅いだりするものじゃない。
「今日はなんの用?」
「やー、突然ナマエに会いたなってしもたんや」
「……そんなのをここにくる理由にしないで」
マサキが嘘を吐いていないのはわかる。わかるからこそ厄介だった。
私にこの気持ちを伝える術はない。マサキとはもうすぐ会えなくなるからだ。三日後、私はこの温室を捨てて逃げると決めていた。
「この温室、ナマエ以外がいるとこ見たことあらへんけど、他に人おらんの?」
「いないよ」
私がここを捨てたら植物はあっと言う間に枯れて命尽きるだろう。この温室には栽培困難を極める草花が揃っている。タイムリミットまでに適当な後任が見つかるとは到底思えない。
私はマサキの目をじっと見詰めた。この人と会うのも今日で最後かも知れないのだ。
「なんや、そんなに見詰められたら穴開く」
好きだと言えない。言ってはいけない。それはつらくて、ひどく悲しい。だが黙っていればマサキは私を忘れられる筈だ。
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PKMN/ソネザキマサキ
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