「何やってるんですか」
司令室を出て行こうとした私を引き止める男がいる。
いつものように任務資料を確認し、それじゃあと背を向けノブに手をかけたところだった。コムイさんは背後から覆い被さるようにして、ドアノブを握る私の手を上から押さえているのだ。肩越しにコムイさんを振り返る。非難の気持ちを込めて。
「のんびりしてる暇、ないでしょ。私も貴方も。早く退いてください」
「もう?」
「……ばかだなぁ」
呆れて二の句が告げない。私がため息をつくとコムイさんの手が名残惜しげに離れていった。
私はその手の軌跡を追うようにからだの向きを変える。
私だって、本当はもっとコムイさんといっしょにいたい。コムイさんはどれだけ私のことを薄情な人間だと思っているのだろう。つい先ほど離れていったばかりの手を取って優しく握る。自分の顔が情けなく歪むのがわかってコムイさんの顔を見ることができなかった。
やわやわと、コムイさんの手の感触を確かめるだけ。本当にばかだなぁ、と思う。これでもし次の任務中に私が死んだらコムイさんのせいである。
「あんまりいっしょにいたら、離れ難くなるんですよ。私が任務に行きたくないってゴネたら困るでしょ? コムイさんのことで頭いっぱいで、任務に集中できなくなってもいいって言うんですか?」
できることならあなたのこと、忘れていたいです。そう言うと、そんなこと言わないでだなんてつらそうな声が降ってきた。私がコムイさんのことを忘れたいなどと本気で望むわけもないのに。
「今度こそ行きますね」
コムイさんの立場から言うとエクソシストの誰かを特別扱いしてはいけないのだから、私は行くしかない。そこに個人的な感情を持ち込まないと決めたのは他でもなく私だ。
そっと繋いでいた手をほどく。するとコムイさんは両手のひらを使って私の顔を上げさせた。
「我が儘言ってごめんね。でも、もう少しだけで良いからちゃんとナマエの顔を見せて」
コムイさんとしっかり目が合う。意図的に視線が合わないようにしていたのにこれではなんの甲斐もない。
私は仕方なくコムイさんの手に再び自分の手を重ねて瞼を閉じた。合図だ。
心の中で行ってきます、と改めて呟く。
絶対に口にすることはない、「帰ったらまたこうして欲しい」も付け加えて。
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D.Gray-man/コムイ・リー
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