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YU-GI-OH/ユーリ
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犬に似ていると言われた。
「犬?」私は問い返す。犬って、たくさん種類がいるけれどどの犬種を指しているのだろうか。チワワ、ビーグル、レトリバー、シェパード。私の知っている犬の中にぴんとくるものはない。
「この間エクシーズ次元の偵察に行ったときにね、見かけたんだ」
「どんな犬?」
「野犬だよ」
野犬。私はユーリの発した言葉を繰り返す。自分でもばかみたいだと呆れた。
野犬というのは野生の犬、ということだろう。種を特定しない犬とは、しかも人に飼われていない犬とはどういったものなのか、私にはうまく想像できない。野犬など生まれてこの方見たことがなく、犬といえば人間に飼育されているものという認識が強い。野生の猫がいるなら野生の犬もいるようには思うものの、とても現実感の乏しい存在だと言える。
前を歩くユーリの靴音が長い廊下に響いていた。小声で会話しているつもりでも、お互いの声はよく聞こえる。ユーリはかすかに笑っているらしかった。
「野犬の目って冷たくて、不信感でいっぱいなんだ。怯えてるんだよ。それなのに攻撃的でさぁ……。そっくりだと思ったんだ」
「私、そんな目でユーリのこと見てないと思うけど」
私には、ユーリとプロフェッサーしか信頼できる人がいないのに、それをいちいち疑っていたら生活が成り立たないだろう。二人が安心感を与えてくれるかといえばそうではないが、恐れる必要もない。アカデミアにいる限り害される心配もないのだから攻撃しようなんて考えるわけもなかった。
「あっ、あとね」ユーリは私の言葉なんて耳に入らなかったみたいにそう言って、立ち止まる。振り返った彼の顔が目前に迫っていた。
「ナマエも飢えた目をしてる。物欲しそうな……」
乾いた口づけに面白味は感じられない。当然それ以上の行為をのぞむべくもない。身の内にわだかまる熱は他人の欲望を待ちわびているが、ユーリの唐突な接触にはまったく反応を示さなかった。ユーリは何度でも同じようにして私を試すが、いったい何が楽しいのだろう。私は決して求めていないし、ユーリだって与える気がないのに。
髪を撫でられながら思う。この違和感の正体に思いを馳せる。
ユーリからしてみれば私はおしゃべりのできるお人形か、それこそペットの犬みたいなもので、同等の人間として扱ってしかるべきものではないのかも知れない。
「僕がほしいのは飼い慣らされた犬じゃないんだ。手ずから躾た犬がほしいのであって、従順なだけじゃつまらないだろう? そう思わない?」
「それって犬の特質を捨てるようなもんでしょ。素直な方が良いよ」
反抗しているつもりはないのだが、ユーリは同意しづらいことばかり言う。「ナマエは僕好みだよ」そう言われて少し苛ついた。
再び歩き出した私たちはいつの間にか、一般生徒立ち入り禁止区域へと足を踏み入れていた。この先には研究棟、それからプロフェッサーが出入りする広間がある。ふと柵の隙間から下階を見下ろすと、誰かが渡り廊下を横切るのが見えた。ユーリにも見えたようだ。
「ほら、誰だっけ」廊下に流れ込んできた風がユーリのマントを揺らす。
「エド・フェニックス」訊かれたから答えた、それだけの筈だったが、その名を口にして、心臓がどきりと跳ねた。ユーリは私の柔らかい部分を探し当てるのがとてもうまい。私自身よりもうまいかも知れない。私が知らなかった柔らかいところ、私がすっかり忘れてしまった柔らかいところ……ユーリはそれらを次々に見つけ出して私に突きつけてくる。
「そうそう。彼に誘われたんだって? どうして黙ってたのかは知らないけどまさか、受けたんじゃないよね」
「断ったよ。あそこは大所帯みたいだし」
「よかった。それを聞いて安心した。今日はこれからプロフェッサーのところに行くつもりだったんだ。ナマエを僕につけてもらえるようお願いしようと思って」
「できるの」
「もちろん。部下のひとりくらい僕に選ばせてくれるよ」
私は歩幅を大きくし、ユーリの隣に並んだ。
エド・フェニックスの誘いを断ったのはユーリの誘いを待っていたというのもあるけれど、たぶん、勧誘されたこと自体を後ろめたく思っていたのだろう。
野犬に似ているとユーリは言ったが、私はまだ納得できていない。乾ききった口づけを好むユーリの見ている私と乾ききった口づけに退屈を感じる私が見ている自分自身には大きな開きがある。私がユーリに何を求めているのか、ユーリは一生気づかないだろう。