「赤馬くん、赤馬くん……ナマエはそればっかりだ」
「いや、そんなことないでしょ」
「そんなことある!」
そんなことある、かなぁ。すごい剣幕で迫ってくるセレナを前に私は頬をかいた。セレナを説得するため、何度か名前を使わせてもらった覚えはあるが言うほどのことではないと思う。
気にし過ぎでしょう。つい口に出しそうになったけれどそんなことを言ったらセレナをますます怒らせることになるだろう。ここはどうにか宥め賺し、やり過ごす必要がある。
しかし悠長に作戦を立てている暇はなかった。私が謝らなかったことがよっぽど気に入らなかったのか腹立たし気にセレナは言う。
「私の側にいると言ったくせに」
「確かに言ったけど、それは四六時中いっしょって意味じゃないよ」
「そんなの屁理屈だ」
困ったな。どうして突然こんな我侭を言い出したのだろうと私は小首を傾げたくなった。さしものセレナも慣れないスタンダードでの生活に疲れてしまったのかも知れない。彼女は元々気の長い方ではないが普段ならこの程度の話、お小言程度でお終いだ。
むくれたセレナをじっと見詰める。要求がいまいち読めない。
私はいったい何を約束するべきなのだろう。赤馬くんの名前はなるべく出さないようにします、とか? なんとも理不尽だ。
「あっ、もしかして赤馬くんのことが好きなの? それなら心配しなくても、私はそんなつもりないから大丈夫だよ」
セレナの顔から一瞬怒りの色が消える。どうやら、違ったらしい。
彼女の瞳に再び怒りが灯った。私が的外れな答えを思いつくがまま口にする前より、はるかに怒っている。
「ナマエのばかっ!」
セレナは私のことをばか呼ばわりすると、どすどすと床を踏み鳴らし、部屋を出て行ってしまった。結局、何が原因であそこまで怒りを燃え上がらせていたのかはっきりしないままだ。
仕方がないので時間が解決してくれるのを待とう。閉まったドアに近づきながら今後の方針を定めた。ドアノブに手をかける。すると意思とは関係なしにドアが開き私のからだは軽くつんのめった。
去って行った筈のセレナがそこに立っている。忘れ物である筈はないが。
「ナマエは私と、零児。どっちが好きなんだ」
「セレナだよ」
反射的に答えてしまったが、それは今さら問われるようなことか?
呆然としていたら「わかった」と呟いたセレナにドアを押し戻され、私は部屋の中に戻っていた。
そっと廊下を覗き込む。先ほどとは打って変わって、セレナが足取り軽く廊下の角を曲がって行ったところだった。
ホーム
/
YU-GI-OH/セレナ
/