なんでもわかった気になっていたかった。だからどんな事柄にも真摯に理屈を捏ねた。
ブルーノがこの世に執着を残すとしたら、私ではなく遊星に対してだろうと感じたときも、冷静に、もっともらしい理屈を捏ねた。それでも、いや、だからこそ、最後まで遊星を許す気持ちになれなかった。仕方のないことだとわかっていても、誰が悪いわけではないと頭でわかっていても、憎かった。沈痛な面持ちで「ブルーノはもう帰ってこない」と告げる遊星が憎くてたまらなかった。
遊星がもう帰ってこないと言うのなら、ブルーノはもう絶対に帰って来られない。どうしてそんなことがわからないの、と私は生まれて初めて他人の頬を打ち、子どものように地団駄を踏んだ。興奮でだんだんと何が何だかわからなくなって、気がついたらベッドの上で天井を見上げている自分がいた。
深夜だったと思う。起き上がることも眠ることもできないままその場に横たわっていると静かに部屋の扉が開いて遊星が入ってきた。遊星はベッドの縁に手を乗せて、しゃがみ込み私の名前を読んだ。「ごめん」と言う声が震えていて、顔を見ずとも泣いていることが察せられた。
ブルーノが遊星に執着したように遊星もブルーノに特別な執着を抱いていたのだろう。二人並んでDホイールをいじっている様子から、マーサハウス出身の者たちやアキや、龍亞や龍可との関わり方とはどこか違うなとは常々思っていたのだ。でも、泣くほどのことだったのか。私なんか、黙って遊星の声を拾うだけでいっしょには泣けないというのにここで泣くのか。
私の抱えている痛みと遊星が抱えている痛みは同じではない。彼にしてあげられることも、してもらえたことも何もかも違ったのだから。
「誰も俺のせいだとは言わない……それがつらいんだ。俺たちは戦う運命にあった、仕方ないことだったと思われている」
「もしあのとき、ああしていれば、こうしていればという仮定の話がどれだけ無駄なことかみんな理解してるんでしょう。それで納得してるからあなたは責められない」
「ナマエは責めるだろう。だから……」
「だから来たの? あなたを打った手も痛かったのに」
遊星は暗闇の中で顔を上げ、私の手に触れた。浮き上がったそれは祈りを込められているかのような具合に額の前で握られている。
さすがにこんな遊星はジャックもクロウも知らないだろう。果たして鬼柳なら知っているだろうか。何かに縋らなければ立っていられなさそうなほど弱り切った遊星を鬼柳は知っているだろうか。どちらでもいいが、鬼柳ならこんなときどう言葉をかけただろう。まさか優しくすべてを受け入れてくれるような人ではない。仲間思いだったからこそ突き放して解決させたような気がする。
私は鬼柳に憧れた。でも私は鬼柳ではない。鬼柳のような人間にもなれなかった。
懐かしい顔を思い浮かべながら握られた手に視線を向ける。遊星と共有してきた思い出は多い。それらをまとめて捨てられたらどんなに身軽になれるか考えて、一瞬ののち提案しかけ、やめた。
遊星はいつまでも私に申し訳なく思っていたらいいのだ。私が許すと言わなくても勝手に歩いていけるようになる。そのときまで。私がブルーノの墓を堀り、そこに留まっても、遊星は仲間に入れてあげない。
時々こうやって私やブルーノや自分のために泣けばいい。
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