パラレル・ロール

7.6.21

GRBL/カシウス

生まれ故郷は山岳に囲まれた灰色の街だった。鉄工業に栄え、貿易も盛んだったが厳しい軍政の下、庶民は貧しい暮らしを強いられていた。
街に暮らしていては食い扶持を稼ぐことすらままならず、ひとり雪の降る雪原に足を踏み入れたことが私という人間の始まりだったように思う。みなしごが選べる道はそれほど多くない。手先が器用なら僥倖。職人になれる。それ以外はからだを売って生きるか、モンスターの餌となり死ぬか、だ。

「私も例外じゃなかった。組織の狙っていた獲物がたまたま逃げ延びていたから私が助かっただけ」

私はふっと息を吐き出してチョコレートを摘まむ。それを口に含むと洋酒のふくよかな香りとカカオの苦味が口一杯に広がった。
カシウスは時々思い出したかのように私自身のことについて訊ねてくる。曰く、「ナマエはフォッシルについてよく知っている。どうして興味のないことにまで詳しくなったのかそのバックグラウンドに興味がある」とのことだ。
月人は、他人に気を使ったり、遠慮したりしないのだろうか。子ども時代のことや組織に労使されてきた過去の話をするのは別に構わないが、そういうことはよっぽど特別な仲にでもならない限り話題になることはない事柄だと思う。実際、今までにこれだけ深い話をしたことがあるのはグランサイファーの団長くらいだ。組織の人間はわけありが多いから、ゼタやイルザなど普段行動を共にすることが多い者ほどそういった事柄には触れてこない。

「興味深いな。その頃とはずいぶん変わったようだ」
「自分の力を過信していたのは確かだね。私は他の人間と違うし、死ぬことはないって考えてた。何も特別なところなんてなかったのに」

だから、知識量だけは増えたと言ってもいい。不器用さを知識量でカバーしようと思ったのだ。
街にねぐらを持っていればひとまずは安心だったが、組織に連れられて各所を転々とする生活が始まると戦闘能力だけではどうにもならない場面というのがいくらでも出てくる。そのときうまく対処できず、組織に見放されたら、私はもう生きていけないと悟っていた。

「それだと恩を受けたという表現は間違っているのではないか。故郷を離れたかったわけではないのだろう」
「えっ」
「違うのか」

違わない。違わないけれどまさかカシウスにそんなことを指摘されるとは思ってもみなかった。

「故郷はなんという場所にある」
「ノース・ヴァスト」
「そうか。俺は団長と約束している。雪を見てみたいと言ったらノース・ヴァストなら見られると、連れていってくれると言っていた。ナマエの故郷にも立ち寄れるといいな」
「うん」

私は遠い過去に思いを巡らせる。灰色の空に白い雪。黒いコート。よれたブーツの爪先。
カシウスはあの光景をなんと形容するだろう。寒さで赤く染まった自分の顔や手を見て何を思うだろう。離れたかったわけではないけれど帰りたいとも思わなかった場所なのに何か特別なものを期待してしまう。

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