ご覧よ

13.6.21

YU-GI-OH/黒咲 隼

自分にできることをやろう。ひとりでも多くの困っている人を助けたい。そう思って炊き出しを支援し始めたのだが、日ごとやる気は削がれていた。今のハートランドシティには人の醜い欲望が溢れている。強盗や強姦を当たり前のように行い、ためらいなく暴言を口にし、恨み言を呪詛のように唱え続ける人々。助け合いを訴えても彼らは聞く耳を持たない。
こうなってしまった原因の一端は融合使いの群勢にあるのだと思う。ただ、侵攻をきっかけに、突如として暴力的で傲慢な人間が出来上がるとは考えられない。今ハートランドシティをさらなる闇へと落とし込もうとしているのは外部の人間ではなくて、潜在的に邪悪を秘めていた内部の人間なのである。何もかも融合使いに責任を押しつけ、自分たちは被害者だからと好き勝手やっている住民には反吐が出る。
いっそハートランドシティの人間は滅ぼされてしまった方が良いのではないか。そんなふうに考えることも最近ではしばしばあった。奇襲により多くのエクシーズ使いはカード化されてしまった。戦力的にも圧倒的に不利だし、抗うだけ無駄なのではないだろうか。
備蓄米もずいぶん減ったが人口減少が著しく、まだ当分は保ちそうだ。今日も、明日も、明後日も米を握り、おそらく毎日文句をつけられる。私も少し疲れているのかも知れない。
私が握った米に海苔を貼りつけていると戸外がにわかに騒がしくなった。顔を上げると、室に入ってきた隼と目が合う。偵察に出てから三日が経過していた。

「途中何度か戦闘になってな。思うように戻って来られなかった」
「お疲れさま。何か収穫はあった?」
「ああ。どうやら奴らはこの近くに拠点を構えているというわけではないらしい。比較的自由に次元を行き来できるようだ」
「それは……困ったね」

悪い予想が当たったというわけだ。融合次元の人間がこちらに留まりのんびり作戦を練っているとは誰も考えていなかった。個人レベルでの行き来も容易とは、ずいぶん科学技術が発展しているらしい。

「避難民の数が減っているように見えたが何かあったのか」
「出てっちゃった。とめたんだけど……ここは窮屈だって言う人たちがグループになって」
「俺たちがいない間に、か」
「そう」

いる間は出て行けなかたんでしょうね。その言葉はどうにか飲み込んで神妙な表情を作る。隼はそれ以上何も言わなかった。聞き分けのない人たちを守る術はない。無事であることを祈るばかりだ。
隼は私の作業を手伝うと言い、隣に立った。疲れている筈なのに、よく働く。隼の握ったおにぎりは私が握ったものとほぼ同じ大きさだが、少しきつ目に結ばれているようだった。
「うまいね」私は隼の握ったおにぎりにそっと海苔を押し当てる。
「久しぶりに笑ったな」
「笑えてるつもりだったけど」
「いつもとは違った」隼は新しく米を握りながら言った。袖をまくり上げたために手当された傷が目に入る。
「何もナマエのせいじゃないんだ。あまり思い詰めるなよ」
隼からは思い詰めているように見えるのか。隼が傍にいてくれればそんなことはないと言えるのに。
隼にずっと傍にいて欲しいと願うことすらこの世界では許されない。

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