数少なくなった街灯の明かりを濡れたアスファルトが吸い取って、ふやかしている。曖昧な光を見詰めていると自分の輪郭まで薄らいでいくように感じた。
私は隣に立つ隼の瞳を覗き込んだ。隼の瞳に曇りは見られない。彼らレジスタンスを名乗る人間は、まだ諦めも絶望もしていないのだった。街を蹂躙され、仲間を目の前でカードに変えられたことで心を折った者も多く目にしたが、未だ反逆の炎はこの地で燃え盛っている。
トタン屋根を打つ雨音の合間を縫って、隼は言った。「お前のことは連れて行けないと言った筈だ」隼の全身から倦怠感が滲み出ている。この話をするのはいったい何度目だろうか。「勝手について行くからいいよ」数え切れないくらい同じやり取りをしてきたように思う。
「どうしてそこまで頑ななんだ。俺の言うことに従いたくないならそれでもいい。だが、アレンやサヤカたちのことも少しは考えてやれないのか」
「……私がいなくても二人は大丈夫だよ」
「今まで言わずにきたが、他のみんなもナマエには残ってほしいと思っているんだ」
私は隼のまっすぐな目に射られて言葉に詰まった。この後に及んで隼に嘘をつきたくないと思っている自分が可笑しくて、情けない。今まで散々嘘を重ねてきたくせに、謝罪で清算できるような偽りである筈もないのに、胸が痛むのだ。私は泥濘む頭の中をかき混ぜて言葉を探す。いちばんシンプルで当たり障りのない優しい言葉は捨て去って、不格好で惨めったらしい言葉を。
「ごめんなさい」
なぜこんなことになったのだろう。
隼の眉間に皺が寄った。
「私にもやることがあるの」
「やること? それはいったいなんだ。何よりも優先すべきことなのか?」
「隼は瑠璃のことだけ考えてて。私は……自分のことは自分でなんとかするから」
「質問に答えろ、ナマエ」
軒から半歩踏み出すと雨粒が顔にかかった。烟るハートランドシティに私の居場所がないことは十二分にわかっている。隼が連れて行ってくれないなら、ここでお別れだ。隼の言う「みんな」は嘘に塗れた私を信用していない。今までごく普通に生きてきた人間が猜疑心を隠し通せるわけもなく、いつでも誰かが私を疑いの目で見ていた。傷つく、などとは言わない。庇ってほしいとも思わない。実際のところ彼らの疑惑は正しいし、隼が「みんなお前を疑っている」と言わないことの方が不思議なくらいなのだ。ハートランドシティに留まることで無実を証明してみせろと言えば話は早いのになぜ言わないのだろう。
額に張りついた前髪を払い、隼の様子を観察する。雨が私たちの間を隔てている。
「逃げるのか」
「いったい何から? 私はいったい何から逃げなきゃいけないの?」
「何からでもいい……ここにいてくれさえすれば、ナマエを守ってやれる」
「私には、誰かに守ってもらう資格なんてないよ」
ハートランドの人々が、あなたたちがもっと早く抵抗をやめていれば、私たちが離れる必要はなかった。そんな言葉を飲み込んで、私は数歩、ゆっくりと後退する。雨脚が強まって隼の顔が不明瞭になっていく。目の前が白く霞む。引き止めるような言葉がないことに、私は心の底から安堵した。
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YU-GI-OH/黒咲 隼
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