突如私の部屋へやってきたコムイさんは濡れた髪を指差して乾かしてほしい、と言う。 「え、嫌ですよ。面倒臭い」 「ナマエが臭うって言うからシャワー浴びたのに」 「臭うとは言ってません。お風呂入った方が良いんじゃないですかと言ったんです」 いくらなんでもコムイさんの言うような言い方はしない。たとえ意味合いが同じであってもだ。 コムイさんの肩を見やると服の色が濃くなっているのがわかった。今もなお毛先から雫が垂れている。 コムイさんは私のことを知り尽くしている、と言っても過言ではないだろう。どんな状況なら断らず部屋に入れるか、とか。どうでも良さそうなことをよく知っているので厄介だ。 私は仕方なくドアと己の体を引いて彼を招き入れた。 狭い部屋。ベッド以外まともに物がないため普段他人を招くこともない。ここへ飽きずにやってくるのはコムイさんくらいだ。 早速コムイさんはベッドに腰掛けて私を手招く。外した眼鏡を折りたたんで左手に収め、すでに準備は万端らしい。私は差し出されたタオルを受け取ってベッドに乗り上げると言われた通り髪を乾かし始めた。 普段、見下げることなど決してない旋毛。毛先の方の水分を拭いながらそこを見詰める。こんな無防備な姿をいったい幾人に晒しているのだろうか。 「こんなことさせて、まさかタダ働きなわけないですよね」 「そりゃあお礼はするよ。入れてくれてありがとう」 「そうじゃなくてこれのお礼ですよ、髪の毛の」 コムイさんがわかっていてとぼけていることを私は知っている。知っているけれど顔に熱が集まるのをとめられなかった。 少し手に力を入れて強めに頭を揺らしてもコムイさんはくすくす笑って返事をしない。なぜ私が恥ずかしい思いをしなければならないのだろうか。 私は適当なところでタオルドライを切り上げてコムイさんの顔を覗き込む。早く仕事に戻れと言ったつもりだが、コムイさんはそれに気づかないふりをして私の首に腕を絡みつける。絡みついて首筋のにおいを嗅いでいる。 髪が顔に触れて冷たいと抗議してもお構いなしだった。私はこの後方々からお叱りを受けることになるのかも知れない。 「お礼するね」 「お礼になってないです」 「そうかな」 そうです。と言ってもコムイさんは決してやめない。 「ナマエ」 報告書を出しに行ったときは疲れ切った顔をしていた筈だが。どこでスイッチが入ったのだろうな、と思う。コムイさんは片腕を伸ばし、さっきまで握っていた眼鏡をベッドの横に置いてある慎ましやかなテーブルの上へ乗せた。 私たちのやり取りはもうお約束に近い。なんだかんだ私も、いつだって流されたふうを装っていた。

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