ミヨルマン

13.6.21

YU-GI-OH/パラドックス

半壊したビルの二階にパラドックスと名乗る男は突如現れた。私が窓辺で引ったくり現場を見下ろしている最中の出来事であった。
突然の出来事だったが私はあまり驚かなかった。なぜかと言えば、私がここへやってきたときと殆ど同じ状況だったからである。まばゆい光に包まれて気づけば崩れかけのビルの中。私がいた世界とはまるで異なる場所。
瞬時に思った。きっとこの人もこの世界の人間ではないのだろう、と。
そうやって出会ってから幾日かが過ぎたある日。いつもと同じように窓の外を見下ろしていた私の側にパラドックスが近づいてきて並ぶ。

「何のために貴様はここにいる」

眼下ではまた窃盗が行われていた。
パラドックスの横顔は青白く、精気が感じられない。ここへくるまでに何があったのか詳しくは知らないが、想像はできる。きっと、彼はこの世界に飛ばされたことで幸せを失ったわけではないのだ。
私はパラドックスの質問に何と返そうか少し悩んだ。何のため。そんな大仰なことは考えていない。
このビルで暮らしているのは成り行きだし、そもそもどうしてこの世界に飛ばされたのかも未だに謎だ。ただ、私が生き延びられたという事実だけが存在する。
私の元々いた場所はモーメントの暴走により壊滅していた。

「ここがどこなのか、私にはよくわからない。でも私が元いたところにとても似てる。……似てるけど、この世界は回復を始めた」
「ただ見ているだけなのか」
「ずっとそう。私は何もできなかった」

瞼の裏には崩れ去っていく世界がはっきりと焼き付いている。
私は誰かに――いや、何か、だろうか――に生きることを許されたようだが特別な力があるわけではない。

「パラドックスは?」

答えてくれなくても良いと軽く訊ねてみると、未来を変えるために戦い敗れ、葬られたという彼の過去は案外あっさり語られた。
ならばここは地獄なのかも知れない。私は小さく笑う。
私もパラドックスも食べ物を必要としないし、睡眠もそれほど摂る必要がなかった。この世界がうつし世ならば私たちは人じゃない。私はパラドックスに対し好感を抱いているが仲間意識もあるのだろう。
パラドックスから視線を外さず近くの椅子を引き寄せ座る。
所々塗装の剥げた木製の丸椅子が軋んだ。
私が思うに、パラドックスはこの世界を救うために、再建させるためにここへ送られたのではなかろうか。そうでなければ、報われなかった男に対してなんとも残酷な仕打ちである。

「パラドックスが行動を起こしたからこの世界は良くなりつつあるんじゃない?」

ここが未来なのか過去なのかはたまたパラレルワールドなのかははっきりしない。だが、それでも似たような土地で違う結果が出ていることに意味はある筈だ。
パラドックスはきっと重要な役割を担うファクター。だとすると私はなんだろうと椅子をぎしぎし軋ませながら考えた。

「ねえ。今日より明日はきっと良い日になるよ。そう考えるだけでこの世の矛盾を受け入れられる。少なくとも私はそうやって生きてきた」

私の口はどんどん言葉を紡ぎ出す。期待している。私は、パラドックスに期待していた。
家族や友だち、みんな失ったけれど明日は必ずくる。誰にでも同じように。今が最低ならこれ以上悪くはならないとパラドックスを励ますように言った。
喧騒が遠退き、彼の瞳に私が映し出される。

「助けて、パラドックス」

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