赫く泉

5.6.21

Bloodborne/ギルバート

※赤月後







「獣の死骸には触らない方がいいですよ」その言葉を聞いて腹の底から激しい怒りが込み上げてきた。そんなことは当然知っている。私にそれを教えたのはこの男だし、例え忘れたのだとしても狩人ならみな遅かれ早かれ知ることだ。
私は震える手で獣の首もとに触れる。細い金属のチェーンを持ち上げるとペンダントトップが膚の上にゆっくり滑り落ちていった。恐る恐るロケットを開く。そこには笑顔の私と、照れ臭そうな顔で私を見詰める男が写っていた。これは間違いなく私がギルバートに贈ったものだ。今、ごみのように捨て置かれているこの獣人はギルバートだ。

「殺さなくてもよかったでしょう……」
「この辺りを徘徊していたのはほとんどがヤーナム人でした。こんな獣は見たことがありません。放っておいたらギルバートが危険に晒されたかも」
「ギルバートはあなたが殺した!とめたのに」
「ええ、確かに。確かに殺してみたらギルバートでした。しかし獣に理性はありませんよ。もはや人ではない」
「……ギルバートだと、わかっていて殺したのね」
「どっちだっていっしょでしょう。聞いていれば……じゃあどうしたら満足したんですか? 我々が狩らなくてもギルバートは他の狩人に始末されている。デュラさんのところにでも送れば良かったですかね」

丁寧な口調で熱を感じられない言葉を吐く男は眩しそうに赤い月を見上げていた。この人にとっては元が誰であれ、獣と化した者はみな道を阻む障害でしかあり得ないのだ。
なんということだろう。先程まで感じていた怒りがみるみるうちに萎んでゆく。デュラの名を出すことは二人の間で禁じていた。黙っていてもお互いにわかっていたからだ。彼はデュラの考えを根本的に否定していて、私は受け入れたいと思っていることを。

「どこへ行くんですか?」

私はギルバートの両腕を掴み地面を引き摺る。どうして彼はこんな目に遭わなければならないのか。どうして私はギルバートを救えなかったのか。
ギルバートは死んだ。これはギルバートであってギルバートではない。

「墓地へ」
「もはや人としての尊厳も何もあったものではないように見えますが」
「もう黙って」

まだ獣を狩らなくてはならない。ここで足をとめるわけにはいかない。そうでなければ今まで私たちが行っていた「狩り」の意味が永遠に失われてしまう。

「夜明けで会いましょう」
「わかりました」

彼はもう私のあとを追ってこなかった。ヤーナムに来てすっかり変わってしまったのだ。
石畳の上に血の道ができる。涙が溢れそうになる。月の何が面白いのだろう。きっとそこには秘密が隠されている。だけど私はそれを暴きたいとは思わない。

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