鬼柳がくれたサボテンにたっぷり水をやる。鉢の底から流れ出てくる水を見ながら、いつになったら枯れてくれるのだろうと首を傾げた。早く枯れてしまえば良いのに、蕾までつけて。
空のマグカップを持ったまま振り返ると遊星の背中が目に入った。
クラッシュタウンという乾いた土地に鬼柳はいるらしく、遊星は彼を連れ戻そうと準備をしている。放っておけば良いといくら言っても遊星は聞いてくれなかった。
いつもそうだ。サテライトにいた頃から何も変わっていない。遊星は私のことを家族のように思っていると言うが甘えさせてくれた試しもなければ我が儘を聞いてくれたこともなかった。
雲が出たのか部屋が数秒陰る。私の心はもやもやと黒く煙っているというのに憎らしいほど天気は良いし、外は静かなものだ。
私は遊星に一歩、また一歩と近づいた。
遊星に行ってほしくない。鬼柳を連れ帰ってくるなんてあり得ない。どうしてわかってくれないのだろう。
「ナマエは鬼柳と会うべきだ」
「会いたくないし、会ったところで何があるっていうわけ。私は鬼柳に虐げられてた。鬼柳は私のことが嫌いだって言--」
「それは違う!」
珍しく声を荒げた遊星がこちらを向く。
遊星は私ではなく鬼柳の味方だ。私の肩に手を置いて宥め賺すように繰り返した。それは違うのだ、と。
正直その話は聞き飽きていた。鬼柳は素直になれなかっただけであって、決して私のことが本当に嫌いだったわけではないのだ、と何度も聞いた。なんて彼らに都合の良い話だろうか。だから許せと言うのか。嫌いだと言って私の心を傷つけた鬼柳を私は許せない。鬼柳の訃報を聞かされてもなお許せなかった。私はその鬼柳の本当の気持ちとやらを遊星から聞かされて今日に至る。当然ながら、鬼柳の口から弁明の言葉など聞いたこともない。
「ナマエは鬼柳をどう思ってるんだ。嫌いなのか」
「私は……」
結局私は鬼柳を嫌いになどなれなかったし、それどころか馬鹿みたいに好きだった。
鬼柳が本当は何を思っていたのかは知らない。どうでも良い。
私に嫌いだと言って、勝手に死んで、亡霊となった人。それが鬼柳京介だ。
私に亡霊と会話する術はなかった。亡霊は亡霊らしくしていてくれ。時間の経過と共に私の心からも消えてほしいのである。
だって、私の心は誰も掬ってくれなかったではないか。今もこうして我慢を強いられているのは私だ。
優しく抱き締められたって、ちっとも嬉しくない。だがやめてと抗議しても遊星は謝るばかりでやめようとしなかった。
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