満ち欠け

13.6.21

YU-GI-OH/権現坂昇

みんなが楽しそうに話しているのを遠目に眺めていたら、不意に胸の奥がざわりと蠢いた。いつも通り私もそこへ加わろうとしたけれど足が動かない。聞こえてくる言葉すべてが上滑りしているような居心地の悪さを感じて唾を飲み込む。自意識過剰なのだろうが、自分だけがその場から浮いている気がした。
「私、そろそろ行かなきゃ」なんとか声を振り絞るとそれまで会話に夢中だった柚子がぱっと顔を上げこちらを見た。「来たばかりなのに?」
「今日は塾で面談あるから。また明日ね」
私は鞄を肩にかけ急いで遊勝塾を出る。面談だったらどれだけ良かったか。私の意向などすっかり無視して組まれたカリキュラムが待つ塾に行かなければならないなんて。足どころか全身が重く、気怠い。遊勝塾のみんなといれば気分も晴れると思ったのに、悩みは一層深まった気がした。

ナマエ!」

蹴り飛ばしたアスファルトの破片が電柱にぶつかって砕け散る。のろのろ振り返るとうっすら汗をかいた権現坂くんがそこに立っていた。権現坂くんとも先ほどまで遊勝塾でいっしょだったが、何かあったのか、それとも言い忘れたことが、と問おうとして阻まれた。

「塾に行くならこっちではないだろう」

言い訳をするべきかしばし考えて、やめた。塾に行く気がないことは既にバレているのにいまさら取り繕っても仕方がない。
権現坂くんはなぜ私を追いかけてきたのだろう。私が嘘をついたことを咎めるためだろうか。真面目に塾へ通えと叱るためだろうか。
嘘つきだと思われるのは構わないが、いい加減なことをしていると思われるのは嫌だった。真面目だけが取り柄なのに。これまでずっと我慢してきたのに……。
「あの……」
「何か悩んでいるんじゃないのか」
「悩み……?」
「見ていればわかる」権現坂くんはにべもない態度で言い切った。
「そんなにわかりやすかった? ちょっと恥ずかしいな」深刻な空気を打ち払うように笑ってみせたが、権現坂くんはにこりともしない。どうやってもごまかすことは不可能なようだ。
私は軋んだプライドから目を逸らし、近くの神社へ移動することを提案した。

「わからなくなっちゃったんだよね。楽しくデュエルできればそれで良かったのに、うちの塾長がそれじゃダメだって言うから。結果的に勝ててるんだし何がダメなんだって訊いても、勝ち負けに拘りがないせいで成長できてないって言われて……」
人気のない石畳の上で向き合ってすぐ口から飛び出してきた言葉は軽く言ったつもりが、思ったより不満げに聞こえた。もしかすると自分で意識していたより反発心があったのかも知れない。連敗が続いていることが余計気分を落ち込ませているのだと思っていたけれど、そもそもことの発端が連敗の一因だったのだ。連敗。明日の試合に負ければ五連敗だ。

「塾長とよく話し合った方が良い」
「……うん」

塾に行くのが嫌で嫌でこんなところにいる私は不明瞭な返事しかできない。冷たい風に吹かれてからだが震えても塾に行きたいとは思えなかった。

「勝つことがすべてではないと、俺は思うがな」
「ありがとう。気を使ってくれて」
「気を使って言っているわけではない」

権現坂くんは眉尻を下げた。私が一拍おいて「帰ろう」と言い、石の隙間から雑草の生えた階段を下り始めると後ろから下駄の音がついてくる。
階段を下り切ったら、左に行くか右に行くか決めなければならない。左に行けば家。右に行けば塾。悩みを吐き出して気持ちが軽くなったせいか、凝り固まっていた思考の中に本心が浮かび上がってくる。このまま家に帰ってしまいたかった。
私は小声で権現坂くんの名前を呼んだ。
前を向いたまま背後の気配を探ってみる。権現坂くんは私のペースに合わせてついてくる。心臓がどきどきしていた。
「お願い、ついてきて」それだけ言って、右に曲がる。
下駄の音は遠ざかっていかない。
権現坂くんはきっとついてきてくれる、と思っていたにも関わらずいざ現実になると少し意外な気もした。私は彼のそんな公平さを好ましく思う。心配して駆けつけてくれたのに気遣いではないと言った権現坂くんは優しい人だ。

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