いくら誓約で寿命を延ばせてもせいぜいが百年程度。人間は聖隷と同じように、同じだけ古くなることはできない。そんなことはわかっていて、それでもなおアイゼンといっしょにいたいと願い私は選んだ。ベンウィックや、他の仲間たちが子を成し老いてゆく。彼らの子らが成長して、また船乗りになったり、子や妻と陸に残る者を見送ったりすることでバンエルティアの水が少しずつ入れ替わっていくことは誓約を課すより以前から想像できていた。
しかし実際にその様子を眺めていると本当に時々、寂しい気持ちになることがある。別れが悲しいというより、自分がどちら側にも所属していないような、ひとりぼっちになってしまったかのような孤独を感じるのだ。
私はアイゼンほど割り切った考え方ができなかった。私以外の人間にはほぼ、アイゼンは見えないし、ごく稀に薄ぼんやり感じられるという者が現れるけれど、今のバンエルティアにそんな乗船者はいない。
「そういや、ナマエさんって海賊っぽくないっすよねえ。どっかのお嬢様って言われても納得じゃないっすか? つかいつから乗ってるんです?」
「細けーやつだなあ。気になるなら自分で訊きゃいいだろ」
「えぇ、なんかわけありな感じするし……」
「まあ一言で言やあ、ナマエさんは死神の守護者だって話」
「死神からバンエルティア号を守ってくれてるってわけっすか」
「あほ。死神は視えない副長のことだよ。バンエルティアにいる」
私は見張り台の影で船員たちの声を聞いていた。
いつの間に死神の守護者だなんて話になっていたのだろう。死神を私が守っている、か。そんな事実はどこにもない。私が魔術を使えて、アイゼンが目に視えないから生まれた妄想だ。アイゼンは紛れもなく海賊。私に守られるような男である筈がなかった。
「海賊らしくないという点には同意だな。未だに船酔いするとは信じられん」
「意外と慣れないもんなんだね」
堂々と甲板を見下ろすアイゼンの姿ははっきりとしている。金色の髪が潮風に靡き、光の加減で虹彩は輝く。身に纏っている皮の匂い。肌の匂い。その低い声も、私にとっては確かなものだ。
「アイゼン」
さすがのアイゼンも、もう私に向かって他の道もあったとは言わない。「あなた以外じゃ意味がない」と言ったあの瞬間、彼は何もかも諦めたようだった。いくらアイゼンが私の子孫を望んでも無駄だと思い知ったのだ。アイゼンを欲しているのはこの私で、血ではない。私が私でなくなればなんの意味もないのである。
「そろそろ同じくらい好きになってくれた?」
「気が早いんじゃないか」
私たちは有限の時間を生きているとアイゼンもわかっているが、あまりこの手の話題には真面目な返事を寄越さない。朝でも、昼でも、夜でもそうだ。まだ真剣さが足りないのかも知れなかった。もっとわかりやすく私のからだが朽ちる様を目の当たりにすれば同じくらい好きだと言ってくれるのではなかろうか。
指先から、からからに干からびて白く、薄く、皮膚が剥がれ落ち、風に巻き上げられてようやく私の気持ちを理解するのだ。
「俺はお前のかけた誓約を知らない」
「誓約は……絶対に破られない。でも、私の魔術師としての才能はそれほどでもないから」
きっと私の方が先に消えてなくなる。
その言葉をぐっと飲み込んで抱えた膝に頬を押しつけた。
アイゼンは常に前を向いて生きていけるし、その方が良い。私があとより、私が先の方が。殺してくれとも頼まれなかったものな、と思っているとアイゼンが傍らにしゃがみ込み私の前髪を*き上げた。まっすぐに見詰めてくる視線は柔らかい。
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