二度目はないの

19.6.21

Hyakkiyakou-syou/飯嶋 開

「あんたなんか大ッ嫌い!」私は人ならざるものに足首を掴まれ地を引き摺られながら叫んだ。
私のせいで死なせてたまるか。私のことなんて放ってさっさと逃げてくれ。こちらに駆け寄ってこようとする飯嶋さんに向かって土を投げつける。こんな嫌な女助ける必要ない。余計なことしないで、と彼を睨む。
どう考えたって偽善だろう。彼は私のことを嫌っている筈なのに、私を助けようとするなんて偽善以外の何ものでもない。
また、ずずっと体が引き摺られる。足首を掴んでいる獣が呻き声を上げた。上半身を捻ってそちらを向くとそいつは長い髪の毛を逆立て牙を剥いた。ついに食われる。私が食べられている間に逃げ切ってよね。心の中で小さく呟き瞼を閉じた。
いつかこんなふうに死ぬのだろうと幼い頃から考えていた。それでもいざ死が目前に迫っているとなればからだが震える。怖い。きっと痛いんだろうな。
だが、そう思っていたのに痛みはなかなか感じられなかった。
そっと目を開けるとあり得てはならない光景に思わず口が半開きになる。
飯嶋さんが私を庇って、肩から血を流しているのだ。

「どうして……」

どうして? 逃げて欲しかったのに。いっしょに死ぬつもりか。そんなこと私は望まない。

「……きみが僕のことを嫌っていても僕はきみのことが好きなんだよ」
「やめてよ」

この男はこんなときになんて馬鹿な冗談を言っているのだろう。相変わらず私の足は掴まれたまま身動きなんて取れないし、状況は悪くなる一方だ。
飯嶋さんは肩をがしがし噛まれて表情を歪めた。

「ば、ばかですか……!何でこんなっ」
「きみは人の話を聞かないなぁ。ナマエを見捨てて自分だけ逃げるなんてできるわけないじゃないか」

息を呑んだ。飯嶋さんがあまりに優しい表情をするから。こんな絶体絶命の状況で言われても、困る。もうすぐ死んでしまうかも知れないのに、嫌だ。
飯嶋さん。私が口を開きかけた次の瞬間、何か大きなものが風を巻き起こしながら飛んできて、飯嶋さんに食らいついていたそれをバリバリと平らげてしまった。
何が起こったのか理解できぬまま訳知り顔の飯嶋さんに腕を引かれ立たされる。
私たちは化け物に捕まるまで見ていた竹林の中にいた。飯嶋さんを呼ぶ声がする。おそらく、走り寄ってくる彼の甥が助けてくれたのに違いない。

「助かった。ありがとう」
「まったく何やってるんですか! ナマエさんに怪我させてないでしょうね!?」
「わ、私は大丈夫。だけど飯嶋さんが……肩」

気にしないでと手をひらひらさせている飯嶋さんだがジャケットは真っ赤だ。

「嘘をついてまで私に恩を売りたかったんですか」
「きみを好きなのは嘘じゃない」

真面目な顔をした飯嶋さんが言う。律くんの反応から真偽を判断しようと視線をやったが、彼の背中は逃げるようにどんどん遠ざかって行った。

「……病院行きましょうか」
「よろしく頼むよ」

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