代償

13.6.21

YU-GI-OH/黒咲 隼

三時のおやつにともらったチョコレートバームクーヘンを飲み込んで、思いっきりのびをする。さすがと言おうか、LDS社長が提供してくれた部屋はいつでも快適な温度に保たれているし、清潔で、とても居心地が良い。私はサイドテーブルからティッシュを二枚抜き取り、指を拭ってベッドに寝転がった。肘で上体を支え、頭を下げると思わず笑い声が漏れる。
贅沢な生活って、退屈。
何より監視される立場では自由がない。協力すればもっとデュエルができると聞いたから信じてついてきたのに、これじゃあ向こうにいたときの方がずっと良かった。

「ねー、デュエルしようよー」
「断る」
「つまんない、暇」

隼はエクシーズ次元を出てからずっとこの調子だ。眦を吊り上げ眉間に皺を寄せて、常にぴりぴりした空気を身に纏っている。私の話なんてろくに聞こうともしないし、口を開けば「瑠璃」。もう慣れてしまったけれど……いや、慣れてしまったからこそ面白くない。
私が隼の後頭部を見詰めていたら振り向きもせずに彼が言った。「自分の部屋に戻ったらどうだ」
「やだよ」語尾に被せて私は答える。「戻ったって暇だもん」そう続けるとようやく目が合った。

「隼だって暇でしょ? デュエルしようよ」
「デュエルはこの部屋以外でできないぞ」
「それが?」
「意味があるのか、ソリッドビジョンを使用しないデュエルに」
「なるほど、知ってるのね! でも大丈夫、今は暇潰しができれば、それでいいから」

隼はいやそうな顔を隠そうともしないでため息をつく。
「最近はちょっと落ち着いてるの」私はベッドから起き上がって腕を組んだ。
ソリッドビジョン中毒、とでも言おうか。デュエル狂いなんて言われたりもしたけれどそれは誤解である。デュエルの中で生じる痛みに、私のからだは支配されているのだ。

「俺には理解できない」
「そうでしょうとも」

私だって理解していないのだから。どうしてこうなってしまったのか。
わかっていれば、たぶんこんなところには来ていなかった筈だ。隼たちのように因縁を持ち込まなければならないデュエルを、私は嫌っている。デュエルを特別神聖視しているわけではないけれど、そういう雑念とも呼ぶべき感情を持ち込むことで、勝負の結果が変わるだとか言われた日には白けてしまう。勝負というのは実力がものをいうのだ。
隼に言われたことがあった。プロになってから成績が振るわないなんて、プレッシャーに弱いのか、と。出会ったばかりの頃だったから仕方ないが今の隼なら決して思いつきもしない台詞だろう。
わざと攻撃を受ける私を受け入れられなかったのは隼だけではない。私を雇っていたプロダクションやそのスポンサーは観客が喜んでいようと勝ちに拘っていた。そして、私を養成所へ送りつけた理由を年若いせいにしたのだった。いくらデュエリストとして優秀でも人間としての基礎が磐石でないからいざというとき役に立たないのだ。そう言って、プロリーグの関係者は得意げだった。

「絶対私の力が必要になるよ。ここで恩を売っておいた方がいいと思うなぁ」
「その自信はどこからくるんだ」
「だーって隼より強いもん」
「お前がスペード校に入れられたのは性格の問題だということが今はっきりした」
「もしかして、デュエルしたくないのは負けたくないから? 私は別に負けてもいいよ。勝ちたいわけじゃないし」
「デュエルできれば満足なのか」
「この際、暇を解消できればなんでもいいよ。ソリッドビジョンなくても気は紛れるでしょ」

耳の奥で観客の歓声が聞こえる。楽しかった思い出が蘇る。
隼もいつかはプロになって、あの歓声を浴びる筈だった。何事もなければ隼も笑っていられたのかなぁ、と思うとほんの少し寂しくなる。純粋な強さを求めて闘ったり、自分の欲のためだけに力を振るうこと。もはや隼にとってそれらは当たり前に手に入るものではなくなった。
デュエルの準備を始めた隼の背中はちっとも楽しそうに見えない。私とはなんの因縁もないのに、私とも楽しむことはできないのだ。正面で手札を広げる隼を見て、思う。無痛だと気が散る。ここにも痛みが必要だろう、と。

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