少ししましょうか、と言ってアルフレートがベッドに乗り上げてきた。私は咄嗟に上半身を起こし近づいてこようとしている彼を押し留める。
言いたいことはわかっていた。しなければこのまま寝付けないのだ。私は。しかしながら、寝つけないからといって毎回アルフレートを頼っていたらアルフレートがいないと眠れないからだになってしまいそうで怖い。その兆しはすでにあり、もはやひとりでやり過ごす夜の方が少ないくらいだった。
「どうせ昼にもなれば眠たくなるし……」
「あなたの場合、午睡では疲れなど取れませんよ。魘されているではありませんか」
「夢の内容はよく覚えてない」
「悦くないとおっしゃるなら納得もできますが」
「そう、じゃなくて」
「何も気にする必要はありません。何も考えず、私に身を委ねてください。すぐに終わります」
すぐ終わる。その言葉を口の中でつぶやく。それは、良いことなのだろうか。アルフレートに得はあるのだろうか。
ひととおりことが済むと私は微睡みの中にいた。全身に心地の良い倦怠感を感じながらぼんやりアルフレートの顔を見る。彼は嬉しそうに大きな手を頭から頬へ滑らせ、そこを何度も撫でた。
いったいなぜ、アルフレートは私に対してこうも献身的なのだろう。彼に訊ねればきっと恋人だからだと返答があるに違いない。だけれどそれは真実と異なるように思う。私を慰めるアルフレートの瞳はいつもどこか薄暗く虚ろの陰があった。恋人と愛を営むことを目的にしている目ではないのだ。
「安らかな眠りをあなたに」
アルフレートが額に唇を落とす。嗚呼、まるで眠っていてほしいみたいではないか?
私は一度眠りに落ちるとなかなか目覚めることができない。夜明け間近に眠って次に起きるのは昼過ぎだ。その間、アルフレートが何をして過ごしているのか具体的には知らなかった。気づけばいつも日常の一部として片付けられている。
「私が寝付いたらアルフレートは?」
「眠りますよ」
よく考えてみると、アルフレートは深夜にわざわざ私の部屋を覗きに来たのだ。水を飲みに行くつもりだったと言っていたが、本当ならアルフレートも眠れていないことになる。アルフレートから、一瞬、熟れすぎた果実のような匂いが漂ってきた。
(……いや、これはこの家の匂いだ)
ヤーナムの一部である証。考えるだけ無駄なこと。
引っ越して来たばかりの頃は確かに違和感を覚えながら暮らしていた。ヤーナムという街の一部である家と、自分との間には隔たりがあったのである。それが今ではどうだ。私もすっかりヤーナムに溶け込んでしまっている。
完全に瞼を閉じる前にもう一度アルフレートを見た。表情はよく見えない。
私をヤーナムに呼んだのはアルフレートだ。悪意はなかったのだと思う。善意と好意で私を誘ったのだと思う。
私は、自らこの街の人間に成ることを選んだ。だから違和感の正体を探ろうとはしなかったし、忘れてしまうのだろう。
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