パーフェクト・ライフ

13.6.21

YU-GI-OH/不動遊星

ソファに腰掛け真剣な顔つきで本を読む遊星を見やった。彼と出会ったとき、私はまだ十一歳だった。強くて、優しくて、クールな遊星がとても大人に見えて、憧れた。でもそれが紛れもなく恋であった。
今現在の私の目にも遊星は変わらず、強く優しいクールな男に見える。なんとか彼の役に立ちたいと猛勉強して研究の手伝いができるまでに成長した今も、遊星のことをとても尊敬しているし、どうしようもないほど恋している。
私は遊星に釣り合う女になれた筈だ。
歳の差は埋めようがないけれど、からだの成長には限度がある。限界まで成長すれば、もう大人と子どもではなく、大人と大人の関係になれると信じていた。そうなれば私はもっと幸せになれると信じ切っていた。
もしかしたら、そうではないのかも知れないと気づいたのはいつのことだっただろうか。疑問を感じるようになってからもうずいぶん経った気がする。
「ねえ、遊星」私は彼の横顔に声をかけた。
遊星が顔を上げこちらを見る。
長らく疑問に思っていたことを、口にする。気持ちは驚くほど落ち着いていた。私はひとつ深呼吸をして言った。「私のこと好き?」
「もちろん。どうした? 急に」遊星は首を傾げた。
不安とは違う、薄膜のようなものが胸の中に広がっていく。
遊星は私のことを大切にしてくれる。優しく包み込んでくれる。
ずっと、昔と何も変わっていない。
でも。
いや、だからこそ。

ナマエ?」
「……じゃあ、私とセックスしたいと思う?」

遊星は息をのみ言葉を詰まらせる。
……やっぱりそうだ。遊星は私に対し性愛を抱いていないのだ。正確には、今の私には性的な衝動を感じないのだと思う。
かすかな虚しさが胸を撫でていく。予想はしていたものの、事実を突きつけられると居たたまれない。
一言「すまない」と言っただけで、遊星は何も言い訳をしなかった。
謝ってもらっても、私の心に動きはなかった。怒りも悲しみも湧いてはこない。どうしようもないことなのだと既に諦めているようでいやだったが、感情的になったところで問題の解決にはならないと大人になった私は知っていた。
「試してみてもいい?」ダメ元で言ってみる。頭ではわかったつもりになってはみても、実のところ納得しきれていないのだ。
遊星はいやがるように身じろぎしたが、「構わない」という言葉が返ってきた。

*

震える指先がゆっくり釦を外していくさまを、私は無感動に眺め下ろしていた。
気持ちに言葉が追いつかないもどかしさを感じていた私はもういない。私は今の気持ちを正しく表現する術を手に入れ、実行する力も身につけた。いやなことはいやと言える。欲しいものは欲しいと言える。何がいやで、どうして欲しいのか考えることができる。年齢を重ね、言語体系を整えた私は言葉の力をこれ以上ない素晴らしい力だと思っていた。
今までは大抵のことが思い通りになっていたもんだから、勘違いしたのだ。いくら私が自分のことを伝えることに秀でていても、受け止めてくれる相手がいなければ意味がない。一方的な想いは底の抜けたバケツに水を注ぐようなものだと今になって知ったのである。
「遊星」ベッドの上で表情を固くした遊星にかけられる言葉なんて、あるのだろうか。
「やっぱり……できない」遊星は釦を外しきったシャツの前を掻き寄せ俯いた。
「そう……」私はその手を払い、手首を取って無理やり素肌を押しつける。遊星が、強い力で手を引いた。見ると彼は口許を隠しえずいている。
そんなにいやか。違うのだとわかっていても訊かずにはいられなかった。「私のこと嫌いになった?」
「違う」遊星の顔は青褪めている。

「大人になったらだめだったんだね。私、ずっと余計なことしてたんだ」
「俺は今でもナマエのことが好きだ」
「わかってるよ」

ようやく悲しみが押し迫ってくるのを実感してため息をつく。いっそのこと興味をなくしてくれたら、そうしたら私たちはきれいにお別れできた。
できないことははっきりしたけれど、それでも、私は遊星が好きだし、遊星も私のことが好きだと言う。それじゃあどうしたらいいの。成長した私のからだは二度と元には戻らない。遊星が最後に触れてくれた十三歳の私には戻れないのに。

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