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Caligula/琵琶坂永至
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「部長くんとずいぶん仲が良いみたいだね」
らしくない顔で、らしくないことを言う琵琶坂永至に私は心底呆れた。首にかけられていた彼の指から力が抜けていくにしたがって頭の中にうっすらと広がっていた気持ちのいい白色が晴れていく。
部長に頼めばいいのに?
なに、それ。
あの人は私の頼みなんか聞かないし、そもそもあれに頼みごとができるくらい関係が良好だったらメビウスに招かれたりはしなかったであろうことをなぜ理解できないのか。
「ああ……なるほど」
「なにをひとりで納得してるんだ」
「言ってなかったなと思って。部長にとって私は特別なの。あの人、博愛主義者みたいな顔してるけど実際は違うから。部長くんは私のことが大嫌いなんだよね」
「そうは見えない」
嘘とはそういうものだろう。人を欺くとはそういうことだ。
私はからだをつなげたまま上半身を起こす。
琵琶坂永至の頬を撫でる。なんだか、無性にこの人が愛しくて可笑しかった。
「部長くんは、知らない人に感謝されるのが大好きでね。自分のことをよく知りもしない人たちが自分に対して恩を感じたり、信頼寄せてくる様を観察して悦んでる悪魔なの。彼が私を嫌うのは私が彼のことをよーく知ってるからだよ。単純でしょ。これで満足?」
「きみたちは情報共有をしているだろう。それに関してはどう説明するんだ」
「情報共有なんかしてない。永至の本性を突き止めた経緯はお互いに知らない。仲良くしてるみたいだけどって忠告されたからあなたと同じでいかれ狂った人だから気が合うんじゃないかって応えただけで察してたよ」
永至は疑わしそうに私のことを見ている。現実に帰るための邪魔になるのではないかと思うのも無理はない。
もうカタルシスエフェクトを使えるようになったのだし、いっそ帰宅部からは離れてもいいような気すらした。疑心暗鬼でぼろを出し、彩声辺りに告発されるよりマシだろう。
おとなしくしていれば部長も、私も、琵琶坂永至の秘密を口外したりはしない。私たちは倫理の外側にいるからだ。彼が現実に帰すべきでない人間だとわかっていても知ったところではなかった。
カーテンの隙間から漏れ差す夕方の灯りを瞳に吸い込み、瞼を閉じる。
「私や部長を殺そうなんて考えないでね。どちらかが死んだら、もう一方が永至を殺すことになってる」
「矛盾してる。例えばナマエが死んだとして、さっきの話が本当なら部長くんはむしろ喜ぶんじゃないのか。ナマエだって……ああ、きみは彼のことが好きなのか」
好きとか嫌いで単純に割り切れる感情だったらよかったね。私は琵琶坂永至の喉元をぼんやり眺めながらつぶやいた。
倫理の外側にも特別なルールが存在する。内側にいる人たちにその場所が暴かれないよう秩序を守るためのルールが。
「冷めた?」
「狂ってるのはどっちだ?」
琵琶坂永至にはわからないと思うが、内へ内へと引き戻されそうになる中途半端な人間もいるのだ。どちらでも生きていけるというのはある意味怖いことで、私はずっと頑強な檻を求めていた。私をつなぎとめてくれる狂った檻を。
部長に相手を頼めばという言葉がどれだけ私を傷つけたか琵琶坂永至は知らないし、気にもしていないだろう。知らずに彼は私の頸を撫で上げる。
実に良い檻だ。