A law of nature

6.6.21

Sky/書庫の大精霊

01

ひと月もの間どこにいたのだと訊かれたって、私にもあそこがどこだったのかはわからない。ただ、星がきれいな場所だった。あとはこれと言ってもののない神殿のような場所で……口を利かないひとと共に過ごしていた、となるべく丁寧に説明したら長老は顔を真っ青にして倒れた。 長老は言う。「何を産むつもりだ」 伏せった長老を見下ろしながら私は答える。「さあ」 私は村に戻ってから懐胎していることを教えられた。しかももうすぐ生まれるらしい。 「お前が何を産もうが、二度と人間と契ることかなわん」 「みんなはどうせよその男と寝たんだろうって噂してるけど、私の言うことを信じるの? 信じるなら……殺した方がいいとは思わない? 化け物を産むかも知れないのに」 「ナマエ。長老たちはこのことを予想していた。お前は星の子になり損ね、人の世に紛れ込んだのだ。お前が会ったのはおそらく大精霊さまであろうよ。殺すことなどできはせぬ」 語り継がれる星の世界は遥か彼方、天空に存在すると聞いている。私は村近くの森から迷い込んだのだがいったいどうなっているのだろう。 寂しそうな顔をしていた大精霊さまとやらの姿を思い出す。私が人の世のものではないならなぜこちらに帰したのだろうか。できることならずっと側にいさせてほしかった。この村は些か窮屈だ。 自分の膨らんだ腹を撫でてみる。胎動を感じる。大精霊さまに託された何かが、動いている。 「侵略の道具にされたんだ」 「大精霊さまはなり損ないも愛しておられたのであろう。だがなり損ないはあくまで人間だ。星の子ではない。お前は星の世界に生きられぬと判断されたに違いない……。侵略など……、村の書庫を調べてみるといい」 長老は胸元から書庫の鍵を取り出し私の手に握らせた。普段は立ち入りを禁じられている場所だ。私たちはこの書庫を守るために生きている。愚直に伝承を信じて。だがそこに足を踏み入れることなく生涯を終える者も多い。 私は銀の鍵を強く握り締めた。

02

いつ生まれてもおかしくないとまで言われているのに、腹の中身が出てくる気配は一向になかった。私のからだの中で動いてはいるので生きているのは間違いないが、さすがの私も不安を覚えずにはいられない。 すっかり伏せってしまった長老に断りを入れ、私は今日も村の書庫に降りてみた。誰が掃除をしているのかは知らないが埃っぽさは一切なく、書庫には清涼な空気が流れていて地上にいるよりずっと気持ちが良い。 風が吹き込んできたのを感じて長い梯子の先を見上げた。設計図の通りなら、この書庫は井戸のような作りになっているので梯子を登ると外に出られる。今は蓋がされている状態である筈なのだ。しかしそれで風が吹き込んでくるようでは本が傷むだろう。 私は適当な古書を手に取り梯子の下部に腰かけた。大精霊さまの御座にも風が吹いていたことを思い出す。大精霊さまは私のからだに風が当たらないよう大事そうに抱いてくれていた。なぜあのひとが私を慈しんでくれたのかは未だによくわからない。長老の言葉を信じるなら私は本来星の子として仕える身だったからということになるが、あまり実感はなかった。 いっしょに過ごした時間はわずかだったけれどとてもそんなふうに思われていたとは考えられないのである。 大精霊さまも孤独を感じるのではないか、話し相手がほしかったのではないか、というのが私の解釈だ。ならば私が元の世界に帰されたのは他に相手が見つかったからなのかも知れない。この古文書を読み解けるような、言葉を交わさずとも心を通わせることのできる誰かを。 本を抱えて大精霊さまの匂いを思い出す努力をしてみた。 まったくもって、身勝手だな。

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